現実主義者の憂鬱
第7話B
世界最高速度と世界最高落差を持つジェットコースター。そんなものを拝める日が来るなんて思っても見なかった。
とりあえず、何とか生きてこの地を踏みしめることができた僕は幸運だったのであろう。
隣のいる大山さんも同じく。
さて、再び大山さんに腕を引っ張られ、先ほどので慣れたと思っていたのだがまだ慣れていなかったようで、僕は彼女に引っ張られながらは己の理性と戦っていた。
しかし、周りが周りだしさすがにまずいっしょ、という結論に行き着き、幾分落ち着きを取り戻していた。無論、そんなところが表に出ているわけもない。
大山さんはやっぱし元気にはしゃぎ回っている。だけど、それはどう見ても彼女の一人相撲だった。そして、そうさせているのは紛れもない僕自身であった。
少しばかり良心が痛む。必死に楽しませようとする彼女が痛々しい。ホント申し訳ない。
だけど、どうすればいいのか全然分からない。ううむ、どうしよう。
とりあえずちゃんと意思表示はしていた。そうじゃないとさすがにマズイと思ったから。うん。
さぁて、とりあえず楽しもう。ちゃんとね。
次に大山さんが向かった先はお化け屋敷だった。
こりゃまぁありきたりな、とか思っていたのだが、なかなか不気味な外装に興味がわいたのは確だ。
ちなみに、入口の端っこの方に『初来園者には特別サービス♪』と張り紙が出されてかいたことは秘密だ。そして、その張り紙のさらに端っこの方に『初来園カップルにはさらに大サービス♪♪』って書かれていたことに気づかなかったことも―
中にズンズンと進んでいく大山さん。残念ながら僕も腕がまだ解放されていないので一緒に中に入っていく。
うひゃぁ、真っ暗だなぁ。と思ってもここはお化け屋敷なので当たり前である。ちなみに、変な匂いがするのはきっと外の生ゴミの匂いであろう。そう思いたい。
ヒタヒタという効果音が実にいやらしい。さっきから大山さんがさらに僕の腕に抱きついてきていることは気にしないでおこう。
暗い、墓地をモチーフにしたと思われるセットの中を歩いていく。
ヒタヒタという音はさっきからさらに音量を上げ、近づいている気がしてやまない。
その音に合わせて、大山さんの腕にも力が入り、体がこわばる。
頼む、頼むからそんなにくっつかないでくれ。
と、懇願しても大山さんが聞くわけもなく、やっぱしくっついたままであった。
そんな可愛らしい一面に驚きを得ることなどなく、逆にやっぱり女の子なんだな、と再認識する自分がそこにはいた。
すると、真後ろからドンと誰かに押された。
「あ!」
「きゃっ!」
僕と大山さんは前にバランスを崩す。その先には見事に何もなく、ていうかなんだか穴らしきものがありそこに二人して転がり落ちていったのであった。
さすがアトラクションというべきか、落ちた先にはちゃっかりとセーフティマットがあり、僕の体はその上に落ちた。
大山さんは思いっきり僕の上に覆い被さる形で降ってきた。悲鳴も何もあげる間もなく、彼女は僕の上に覆い被さった。
「イテテ…」
「お、大山さん!」
「ん?へ?」
「どいて!どいて!」
「あ、あああ!わわ、ゴメン!」
今の状況がどんな状況だったかは敢えて言いまい。皆さんはご自由に想像してくださって結構です。
とりあえず、大山さんは顔を真っ赤にさせて僕の上から降りた。僕ものっそりと起きあがる。あちこちが痛い。
「え、ええとぉ…、とりあえずゴメン!」
大山さんは顔の前で手を合わせて謝っている。
「いえ、そんな謝らなくても良いですよ。事故ですから。ね」
そう言うと大山さんは顔をさらに真っ赤にして俯いた。ふぅ、もう誰だよ、突き落としたやつは。
その後は、何とか出口までたどり着くことができた。
途中、さっきのようなハプニングが2度ほどあったが何も言わないでおこう。どうやらこの遊園地は手の込んだいたずらが大好きらしい。困ったもんだ。
外に出たあと、軽く昼食を取る。すでに時刻は2時になっていたが、レストランはまだまだご盛況のようだ。
大山さんは未だに真っ赤になりながらスパゲッティをちゅるちゅると食べている。そして僕は、というとラーメンを豪快にすすっていた。うん、ラーメンは良いよね。
あっさりと食事を終わらせ、再び園内を散策する。
はじめのジェットコースターといい、その次のお化け屋敷といい、どうやらこのテーマパークにはまともなアトラクションはないらしい。
大山さんの要望でメリーゴーランドに乗ったのだが、そのメリーゴーランドが異常なスピードで回ったの言うまでもないだろう。
ちなみに、その時に僕がひっくり返って吹っ飛んだのは秘密だ。
そして、午後4時から始まったパレード。
初来園者とばれないようにコソコソと移動していたのだが、残念ながら係員に見事に見つかり、パレードの中に放り込まれた。
しかも、動く櫓の上にご招待ときた。これにはもう呆れるしかない。
ちなみに、大山さんはもうやけになったのか結構ノリノリだった。うん。実に面白い光景。
そして、少しばかり落ち着いた頃には日は傾き、太陽が空を真っ赤に染めていた。
「ねぇ、赤坂」
ベンチに座ってボーっとしていた僕に声をかける。
「なんですか?」
「最後にさ、アレ乗らない?」
彼女の指さす方向を見た。そこには―
真っ赤な夕日。そして、長くのびる二人の陰がそこにあった。
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