現実主義者の憂鬱

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第7話A

『初めて来園の方は覚悟してくださいね♪』
 このフレーズの意味にやっと気づいた。何で今まで気づかなかったのだろうと自分に聞いても、ハッキリ言ってこんなフレーズの意味など気づける人などこの世にいない。
 ていうか、もしかして私はデート場所を間違えたのかもしれないと思った。 
 
 とりあえず、遊園地に来たのだから私ははしゃいでみた。久々に来て懐かしいなと思う気持ちもあったし、何よりこうして遊びにでること自体が新鮮だった。
 しかし、隣の赤坂は相変わらずの仏頂面。いや、少しばかり険しい表情。
 何?私と来て楽しくないのか?
 と、詰問してやろうと思ったが、今日は私が誘ったので少しばかり女の子らしく聞いてみた。由喜に聞いたのだがこうすると男っていうのはイチコロらしい。
 …赤坂は明らかに引いてたけど。
 そんな赤坂を無視して、腕を組んでやった。由喜によるとこれも効果絶大らしい。
 ……でも、赤坂は変わらず無表情でした。
 キーッ!ムカツクゥ!
 いくら何でもずっと無表情って酷いっしょ?ねぇ?皆さん!(って誰だよ)
 これじゃあ私の一人相撲じゃんって思ってしまうが我慢。いつかは報われるときが来ると信じて。さぁ、頑張れ私。
 赤坂の腕を引っ張りながら園内をうろうろしていたら、ジェットコースターを発見。
 私はジェットコースターが大好きだ。と、言っても全然遊園地に来ていないので最近は乗ってないけれど。
 赤坂に乗ることを促す。面白いことに彼はジェットコースターを知らなかった。
 意外と世間知らずなんだな。へぇ。
 そして、二人並んで席に着く。
 魔のアナウンスがなる10秒前のこと―

 こんな企画を考案したやつを、私はぶっ飛ばしたい。否、ぶん殴ってコンクリ詰めで海に放り投げたい。
 現在、私は悲鳴も上げることもできず、とりあえず安全バーに必死に捕まっていた。
 『初来園者サービス』
 それはジェットコースターのスリルをさらに味わって貰うもの。
 このジェットコースターは普段は時速100キロメートルらしい。この速度はジェットコースターのなかでは中堅にあたる。
 しかし、初来園者サービスとしてなんと時速180キロメートルまでスピードアップするというのだ。ちなみに、ジェットコースターの速度の世界ランキング1位は172キロ。つまり世界で1番速いジェットコースターに乗るというのだ。
 しかも、ここのジェットコースターの落差は世界1の100メートル。ちなみに第2位は93メートルというのでその差はなんと7メートル。恐ろしい。
 なぜこれだけ知っているのかというと、わざわざ親切丁寧にジェットコースターの安全バーに書き込まれており、現在カタカタと嫌な音を立てながら最高落差100メートル地点までコースターが上っているからなのである。
「大山さん。大山さん」
 不意に名前を呼ばれ、おそるおそる横を向くと、そこには引きつった顔をしている赤坂がいた。
「大丈夫ですか?ホントに」
 私はコクコクとうなずくが、残念ながら全然大丈夫ではないのが真実だ。こんな高いところで、しかも時速は世界1。ちなみに落差も世界1のジェットコースターに乗るだなんて、予想にもしていなかったことなのだから。
 さすがに赤坂も表情が硬い。無表情の赤坂がこれだけ反応するのだから、きっと赤坂もヤバイと感じているのだろう。
 そう思っているうちにてっぺんまであと少しになっていた。
 きっと、あと10秒もしないうちに私は地獄へのゲートへ突進するのであろう。唯一の救いは赤坂も道ずれだということだけで、あまり嬉しくないのが実情だ。
「あ、赤坂」
「ん?な、何ですか?」
「…し、死ぬときは一緒だよ」
「勘弁してくださ…っ!」
 赤坂が言葉を言い切る前に、私たちの体は一気に地に向かって落ちていった。
 私は叫ぶこともできず、ただ安全バーを握りしめながら生きて帰れることを祈るだけだった。私の涙が風で横に流れる。
 生きた心地がしなかった。

 気がつけば、二人そろってジェットコースターの降り場に立っていた。
 赤坂の顔は呆然とした表情。そして髪はボサボサになっていた。そりゃああの速度だったもんね。
 というと、私も自分の髪の毛が気になり、赤坂に断りを入れて(ちなみに反応無し)お手洗いに直行。むろん、髪の毛は化け物のように跳ね上がっていたのは言うまでもない。
 
 何とか髪を直して、赤坂の待つ場所へと戻ったら、赤坂は一歩もその場所から動かずに律儀に待っていてくれた。
「ゴメンね。待たせちゃって」
 とりあえずちゃんと謝っておく。今日は彼を笑わせるために来たのだ。彼に迷惑がかかってはいけない。
「いえ、そんなことありませんよ」
 どう見ても偽りでしかないような台詞。彼の本心を知りたい。それが私の願いだ。
「じゃ、じゃあ次行ってみよう!」
 再び彼の腕をつかみ、私は歩く。
 まだまだ、デートは始まったばかりなのだから。
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