現実主義者の憂鬱

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第6話B

 何じゃこりゃ?
 第一印象はそんな感じだった―

 大山さんに誘われ、言われるがままデートをするために、テーマパーク「へボラパーク」に来た。
 何ともふざけた門。訳の分からないキャラクターの着ぐるみを着た連中がたくさんいる。気味が悪い。
 隣の大山さんはと言うと、なんだか子供のような輝きを秘めた眼差しを彼らに向けていた。
 ははは。乾いた笑い声を心の中で出す。女の子って男より早く大人っぽくなるくせにこういうところではまだまだ子供だよな、と思ってしまう。
「さ、行こうよ!」
 大山さんが僕の手を取ってズンズンと前に進む。彼女の手は僕の手よりも冷たく、ひんやりとしていた。
 ―ああ、女の子の手って冷たいんだな―
 そういや、そんなことを聞いたことがある。なるほど、本当だったんだな。
 僕はとりあえず彼女にひかれるがままに園内へ入っていったのだ。

 彼女が抱える一抹の不安に気づくわけもなく―

 とりあえず、無料招待券を係員に渡し、中に入った。
 広々として園内にはたくさんの人に、楽しそうな音楽。そして色とりどりな照明やアトラクション。
「ほう」
 と思わず感嘆の声を出す。これが遊園地とやらか、感動だな。
 しかし、僕は相変わらずの無表情。大山さんがなんだか心配げな顔で僕の方を見ていたことに気づく。
「どうしました?」
「え、ううん。赤坂がなんだか難しそうな顔をしていたから…」
 なるほど。まぁ、この僕だ。仕方ない。どういう表情をすればいいのか僕には分からないのだ。
「いえ。遊園地とやらに初めて来たので少し驚いていたところです。なかなか面白そうですね」
 そう言うと、大山さんの顔がパァと明るくなった。おい、大山さんってこんなキャラだったっけ?
「え、あ、そう。なら早速行こうよ!」
 そう言うと、大山さんは僕の腕を引っ張っていく。そして自分の腕を絡ませ、がっちりと固定する。
 ちょ、ちょ、ちょい待てぇい!
 なんだか柔らかい感触が僕の腕に感じるのだが気のせいか!
 しかし、そんなときにどんな表情をすればいいのか分からない僕。あわてふためく内心をよそに、僕の表情は代わり映えしない。
 大山さんはそんなのもお構いなしで僕を引っ張って歩いていく。
 ややややや、やばいっす!
 こんな真っ昼間(注:まだ11時)から理性が吹っ飛びそうな出来事があってはならぬ!
 くそ、こんなことなら女に免疫つけておくべきだったぜ。と今更後悔しても無駄である。当たり前だ。
 何とか理性のダムで暴走を押さえつつ、大山さんとの、記念すべき生涯初めてのデートが始まる。

「ねぇ。アレ乗ろうよ」
「え?」
 大山さんの問いかけに、僕は聞き返す。ちなみに、今の僕は未だに理性と格闘中。いつになったらこの腕を解放してくれるのか。生殺しじゃんかよ。
「あれだって、ほら。見えるでしょ?」
 彼女の指さす方を見る。なんだかレールの上を列車みたいのが走っている。えーっと、確かあれは「ジェットコースター」とかいわれるものじゃないですかね?
「そうだよ、って知らないのぉ?嘘でしょう」
 知らないって言うか、見たことないからなぁ。だから遊園地に来たことがないんだよね。
「残念ながら実物を見たことがなかったもので」
「ふぅん。とりあえず乗ろうよ」
 彼女はやっと僕の腕を解放し、カンカンカンと鉄の階段をのぼっていく。僕の腕には先ほどのぬくもりが少しばかり残っている。
 はっ、いかんいかん。何邪な考えをしているんだ僕は。
 雑念を払わねばならん。
 心頭滅却心頭滅却心頭滅却心頭滅却心頭滅却心頭滅却心頭滅却心頭滅却心頭滅却心頭滅却心頭滅却心頭滅却心頭滅却心頭滅却………
「ちょっと!赤坂。何してるの?」
 大山さんの言葉で現実世界に引き戻される。いかんいかん、どうやら自分の世界に迷い込んでたようだ。
「すいません。少しボーっとしていたんです」
「そう。じゃあ、早く乗りましょ」
 そう言うと早々と席に着く大山さん。僕もその隣に座り安全バーをおろす。
 まぁ、所詮普通のジェットコースターだ。どうってことないだろう。
 と、その時、アナウンスが流れた。
「ご来園、誠にありがとうございます。当ジェットコースターには、初来園者に特別サービスを実施中です。たった今、初来園者の方がお乗りになったので、サービスを実施させていただきます。心ゆくまでどうぞお楽しみください」
 何?初来園者には特別サービスだって?
 僕は少しばかり戸惑ったが、特別サービスという聞こえの良い単語に期待感を抱いた。
 何のサービスだろう。一体どんなんだろうなぁ。という期待感はだんだんと増してくる。
 他にこのジェットコースターに乗る者はいない。どうやら初来園者オンリーのサービスらしい。係員が他の客を止めている。
 ふと、隣の大山さんを見た。
 彼女はなんだか不安げな顔をしていた。
 まさか―
 
 久々に、僕の不幸が炸裂するようだ―
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