現実主義者の憂鬱
第6話A
隣に並ぶ赤坂。
彼は無表情なままで歩いている。
少しばかり前に出て彼をリードする。まぁ、道順を彼は知らないのだから当たり前なのだが。
私は一抹の不安を覚えていた。あのパンフレットの片隅の文字。
そして、私たちはテーマパーク「へボラパーク」へ向かった―
誘ったのは良かった。
何でデートにつながったのは知るよしもないが、とりあえず行くことになったものはなったのだ。
しかも、誘ったのは私である。間違いもなく私である。
「はぁぁ〜」
何であんなことを言ったのか自分でも理解できない。そして、それに対しOKをくれた赤坂も理解できない。
「はぁぁぁぁ〜」
さっきよりも長いため息。しかし、まぁ、悪くもないか、って思っているのが本心だ。
ハッキリ言おう。私だって年頃の乙女だ。新学年になって早々こんなことがあるなんて思ってもみなかったが、少しぐらいはいろいろと期待していたのは紛れもない事実なのだ。
しかも、認めたくはないが赤坂の顔を見れば私だって少々頬が赤くなる。あれだけの美形だ。何で芸の界にスカウトされないのかってくらいの美形なのだ。
そんな人とのデートだ。期待して何が悪い。
うん。なんか開き直っちゃてるよね、私。
なんだかんだ言いながらも楽しみにしてるわけだ。そう、赤坂のデートを。
でも、今回のデートには大きな目標がある。
神のお告げか単なる夢か分からないあれ。心に引っかかっていた蟠り。
彼を笑わすのだ。そう。彼の笑顔を見る。
ハッキリ言って、何でそうも熱心になるのかも私には分からない。
でも、どうしても見たい。今では私の私的な願望だけど、彼の笑う顔が見たい。
きっと彼は苦しんでいるはずなのだ。そんな自分に苦しんでいるはずなのだ。
デートで行く場所を考える。言ってみたのは良かったものの、どこに行くんのかすら考えていない。そこら辺のデートスポットでもいいのだろうが、私はそんなところに関しては疎い。てか恋愛に関して疎いのだ。
………だって告白されたことなんて中学の頃に1回だけだもんね、ふん。
「…仕方ない。由喜に相談するか…」
こういうときは友達だ。しかし、由喜に相談するのは気が引ける。なんか笑いまくったあげくに冷やかされそうだし。
しかし、彼女は恋愛などそう言うことに関してはかなり詳しい。しかも経験済みらしい。オイオイ、まだ高校2年生だろうが、何やってるんだよ…。
とりあえず彼女の携帯にかける。3度目の呼び出し音のあとに、由喜は電話にでた。
「もっしもーし、由喜だよぉ」
変わらぬ声に、変わらぬテンション。やっぱり由喜は由喜だ。
「あれぇ?香奈ちゃんかなぁ?何のご用ですかぁ?」
「え、えっと。笑わないで聞いてよ。実はね…」
そして、約5分後。
「ワッハハハハハ!」
笑った。笑いやがった。しかも、バカみたいに大声で。
私はあきれて反論する気もなく、そのバカみたいな笑い声がなくなるまで黙って携帯電話を耳に押し当てていた。
「ひぃ、ひぃ…。ああ、ゴメンねぇ。いやぁ、まさか香奈がそんな行動に出るなんて思っても見なくてさ…。一昨日に次いでかなりの衝撃だよ」
そりゃ悪うございましたね。では、もう電話切ってやりましょうか?
「ああ、そんな怒らないでって。で、デートで行くところでおすすめの場所を教えてほしいのよね?」
「うん、そう」
「それならいいところがあるわよ?ほら、あの繁華街の『ジュリアーノ』ってビル」
じゅ、ジュリアーノ?何じゃそりゃ。私は繁華街を思い浮かべる。ジュリアーノジュリアーノ…。
私の脳内繁華街でそのビルはあった。思い出した瞬間、私の顔をボッとなかなかいい音を出して真っ赤に染まった。
「なななななな、何言ってんのよぉ!そそそそそ、そこ、ららららら、ラブホじゃん!」
一気に沸点を超えた私の頭では、うまく言葉を発することができないようだ。
「はははは。なーに、からかっただけじゃないの。何?邪な妄想でもしたのかなぁ?香奈ちゃんはぁ?赤坂君とあーんなことやこーんなこととか?」
赤坂とあーんなことやこーんなこと………
ああああああ!
駄目駄目駄目駄目駄目駄目ぇぇ!
な、何考えてんのよ!私は!
真っ赤な顔をぶんぶんと左右に揺る私。そんなことになるわけないじゃない!つーか目的はそっちじゃねぇだろ!
しかも、何言ってるのよ、由喜は。
「ははは。ホントに香奈ってからかうと面白いわねぇ」
「も、もう!ちゃんと考えてよぉ!」
私は真っ赤な顔のまま携帯に怒鳴る。
「あーあーあー、そんな怒鳴らないの。もう、悪かったって。じゃあ、面白い物あげるから許してよ、ね?」
面白い物?
何じゃそりゃと由喜に聞いたが、今から届けちゃる、とか言って電話を切った。ええと、何なんだろう。
まだ少しほとぼりが残る顔を私の指がなでる。
そして10分後。由喜が来た。彼女は何か封筒のような物を持っている。
「これは何?」
「まーまー、見てみなって」
言われるがまま封筒を開ける。中には何かパンフレットらしき物と入場券みたいな物があった。
ええと…へボラパークぅ?
「そう。今月の1日にオープンしたばかりのテーマパーク。つまり遊園地。そしてそれが招待券。我が家には4枚もあったから半分あげる。あ、残りの2枚は私と私の彼氏の分だからね」
んなこと私は聞いていない。つーかへボラパークとやらはどんなのなのだ?
「ええと、私も行ったことがないからよく分からないらしいけど、かなりすごい遊園地らしいよ。なんかオープン時にはかなり話題になったそうで」
へぇ。そうなんだ、と私は言っておく。パンフレットを見たところ、なかなかおもしろうな遊園地であった。
しかし、何か端っこに書いたある。
『初めて来園の方は覚悟してくださいね♪』
意味不明だ。由喜に聞いてみるが
「え、何それ。私もわかんない」
と、彼女も分からないようだ。
漠然とした不安がその文字から感じられたのは気のせいではないようだ。
さて、そんな回想はさておき、間もなく「へボラパーク」に到着する―
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