現実主義者の憂鬱

PREV | NEXT | INDEX

第5話B

 一体何を言い出したのか全然分からなかった。
 ハッキリ言って、意味不明。
 気がついたら僕はうなずいていた。何でうなずいたのかは分からない。でも、僕は同意の意を示してしまったのだ。
「デートしよう!」
 大山さんの言った言葉が蘇る。え、何?デート?
 一体デートやらは何なのかすら分からない。
 とりあえず国語辞典で引いてみる。
 えーっと、たちつて…で…あ、あった。

 デート【date】
  男女が日時を定めて会うこと。「恋人と―する」

 ふうむ。なんだ、会うだけか。簡単じゃないか。僕は安堵のため息を漏らす。
 今思ったのだが、僕って常識知らずかな、やっぱ。
 とりあえずだ。そのデートとやらの日取りがたった今メールで届いた。しかも明後日だ。日曜日だ。
 貴重な休日をこんなことに費やさねばならないのは遺憾だが、大山さんの頼みだ。断ったりなんかして今後の生活に支障など出たら大変困る。
 何をすればいいのか分からないけど、まぁ彼女の言うことを黙って聞いておけばいいだろう。
 どうせ、何のメリットにもならないし、デメリットもないのだからな。

 ということで、気がつけば当日の朝だ。
 僕はなんと6時に目を覚ました。いつもより15分早い。
 とりあえずのろのろと体を起こす。携帯を手に取り、メールを確認する。やっぱり今日だ。
 服を着替え、自分の部屋を出る。階段がいつものようにキィキィなる。いつか踏み抜きそうだな。
 一応女の子と会うわけだから身支度をしっかりと整えねば。
 顔を洗う。今日はちゃんと髭も剃っておこう。うん。
 おっと、危なく切りかけた。イタタ。
 そして髪のセット。どうやればいいのか全然わからん。まぁ、寝癖を適度に直せばいいか。
 ある程度髪を水で濡らし、髪をとかす。寝癖はすんなりと直った。
 よし、これで大丈夫!
 朝食をパパッと済ませ家を出た。
 ………なんか期待してるな、僕。

 
 駅前に10時に待ち合わせだった。
 僕はそれよりも1時間も早く待ち合わせ場所に着いた。
 これって俗に言うテンパッてるのかな、僕。
 まぁ、早くいった方がいいに決まっている。遅れたら面倒だからな。
 間の前を人が流れていく。
 多くの人、人、人………
 様々な表情が見える。
 無表情な人もいる。しかし、笑っている人だっている。なんだか哀しげな表情の人だっている。
 じゃあ、僕の表情は一体どんな表情だろう。
 笑っている?
 悲しんでいる?
 きっと、無表情なのだろう。僕には表情が欠落している。
 笑ったって、悲しんだって、何のメリットも見いだせない。利益なんて見込めない。
 だから笑わない。悲しまない。
 そんな自分に寂しくなる。何でこうなったんだろう。
 それは自分のせいだって分かっているのに考えてしまう。何でこうなったんだ?
 このまま考えていてもどうせ堂々巡りなので、僕は考えるのをやめた。虚しいだけだ。
 時計を見る。もう9時半だ。人はさらに多くなっている。
 と、その中になかなか可愛らしい娘が見た。
 こりゃもうお約束な設定だな、と心の中で乾いた笑い声を出す。もちろん、表には出ない。
 その娘は僕の姿を見るとあわててこっちに向かってきた。そんなに急がなくてもいいのに。
 人混みをかき分け僕に近づいてくるその光景は、なかなか微笑ましいものだった。
 ようやく、僕の前に着く。
「ゴメンッ!待たせた?」
「そんな謝ることはないです。僕が早く来ただけですから」
 一応真実を述べる。大山さんが「そんなときは今来たところですって言うべきでしょう」って小声で呟いたけど僕は知らんぷりした。
「で、何処に行くんですか?」
「あ、そうそう。ここよ」
 と、大山さんは何かのパンフレットらしき物を出して指さした。
 ………へボラパーク?
 何じゃそりゃ、と思わず僕は言ってしまった。彼女は何?知らないの?へぇ〜、って顔をしている。ホント表情豊かな人だ。
「そこはね、今月1日にオープンしたばかりの遊園地なのよ。たまたま招待券が2枚あったからね」
 へぇ、遊園地かぁ。
 って、遊園地!?
 何じゃそりゃ!とまたまた言ってしまった。
 聞いたことはあるけど、何なのかは全然知らない僕。本当に世間知らずだったんだなぁ、と恥ずかしくなる。
 つーかデートってどこかに一緒に出かけたりもするのか、と今更気づいていたりする。
「はぁ?そんなのも知らないぉ?」
 大山さんは信じられないって顔をしている。面目ない。マジで知らないんだ。
「はぁ。とりあえずこれでも読んだら分かるでしょう」
 と、大山さんは僕に先ほどのパンフレットを手渡した。なるほど、これを見たら分かるのか。
 僕はパンフレットを読み出す。なんだかよく分からなかったけど、動く機械とかぬいぐるみとかの写真が多かったな。
「どう?分かった?」
 う〜ん、と僕は首をひねる。まぁ、行ったら分かるでしょう。とだけ言っておく。
「ん?ま、まぁそうね。じゃあ行きましょうか?」
「はい、そうしましょう」
 と僕らは駅の中へと歩き出した。
 前途多難なデートの始まりでした。
 
PREV | NEXT | INDEX
Copyright (c) 2005 All rights reserved.