現実主義者の憂鬱

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第4話B

 とりあえず、だ。
 家の近くのファミレスで僕は一服していた。
 今日はいろいろとありすぎて大変だった。
 ったく、作者め。イベント事詰めすぎだろ!と怒ったところで今までの時間が戻ってくるわけもなく、参考書も買えず、結局なんだか悶々とした気持ちだけが残る結果となってしまった。
「はぁ」
 とため息でもはいてみる。
 残念ながらどうしたの、と聞いてくれる友人など隣にいるわけもなく、周りの騒がしさにかき消されてしまう。
 先ほどの大山さんに言った言葉を思い出す。
 大山さんが言ったことはすべて事実だ。自分のことを的確に表している。しかし、それを認めたくない自分がそこにいた。だから、あんなことを言ったんだ。
 ひどい吐き気を覚える。畜生。なんでいつも僕はこうなんだ。
 すべて周りのせいにしている。自分からは何も改善しようともしない。
 頭を抱えてうなだれる。
 このままじゃだめだ。このままじゃだめだ。
 現状を打破しないといけない。しかし、きっかけがない。何をすればいいのかすら分からない。
 とその時、携帯が鳴った。
 僕はポケットから携帯を取り出す。差出人は………大山さん?
 内容を読む。短くて簡素なものだった。大山さんは文面で謝っていた。事実を述べたことに対して謝っている。
 さらに自分に嫌気がさし、吐き気が増す。何で大山さんが自分のメールアドレスを知っているかなんてどうでもいい。なぜ、彼女が謝るのかが理解できない。
 結局は、すべて自分のせいと分かっていても、別の原因を考えている自分。
 有益がどうかで物事を考えている自分。
 すると、やっぱり自分が原因だと言うことは不利益でしかない。
 悲しきかな、なぜ僕はこんな現実主義者になってしまったのか。
 こらえていた吐き気が我慢できなくなり、僕はトイレに駆け込んだ。

 気がつけば、自分の家にいて、次の日になっていた。
 とりあえず学校に行かねば、と重い体を起きあがらせる。机の携帯が目に入り、昨日の出来事を鮮明に思い出させてくれる。
 顔を洗うために、洗面所に行く。
 冷たい水で顔を洗う。前髪から水がしたたれ、電気で少しばかりきらきらと光る。
 朝食を軽く済ませ、いつもより早めに家を出る。
 学校へと続く坂を下っていく。太陽が右手から僕の体を照らす。
 この坂は異常に曲がりくねっていることが特徴的だ。学校に行くまでに直角に近い曲がり角が4カ所ほどもある。
 足下に気をつけながら歩いていく。坂でこけて、転がり落ちるなんてことにならないように。
 角を曲がる。目の前で家から出る女の子が目に入る。
「あ」
「え?」
 目の前にいたのは大山さんだった。
 ―なんてありきたりな―
 一瞬めまいを覚えたが、何とか体を支えることができた。大山さんは僕を見てなんだかあたふたしている。
 ええ、こういうときはどうすりゃいいんだろうか?
 残念ながら、僕は人付き合いになれていないので、どうすればいいか全然見当もつかない。
 とりあえず、謝っておこうかなと考え、僕は謝罪の言葉を言おうとすると
「あ、あの!」
 大山さんが先に言葉を発した。
「何?」
「え、ええと…」
 なんだかよく分からない。彼女は少し顔を赤らめている。
「…一緒に学校行かない?」
 ………予想外。想定外。
 僕には一体何が起こったのかさえも分からなかった。大山さんはどうやら僕の答えを待っている様子。
 なぜ、彼女は僕と学校に行こうと言ったのか。ハッキリ言って、何のメリットもない。もちろん、僕も一緒に行くことで何かメリットを見いだせるわけでもない。
 しかし、大山さんとは昨日気まずいことがあったばかりだ。しかも、原因は僕だ。
 ここで断ったら大山さんと一緒にクラス委員の仕事をこなすことなど不可能になってしまうのではないだろうか?
 いや、大山さんのことだし大丈夫だろう。
 万が一、一緒にしなくなってもそれほど大仕事がクラス委員に課せられることはにはずだ。
 しかし、やっぱり同じクラス委員なんだから適度に仲良くしないとだめなのかもしれない。
 ならば、この際一緒に学校に行った方がいいのかもしれない。
 だけど、僕はハッキリ言って話すのが下手だ。気まずい沈黙の流れる登校は勘弁してほしい。
 でも、やっぱり一緒に行った方が昨日の蟠りも解かれるのではないのだろうか?
 以上、僕の脳内会議はこの一連の考えを5秒程度でまとめ、結果一緒に行くことに決めた。どうせ一緒に行くだけだ。別にどうってことはない。
 
 大山さんが隣で歩いている。彼女との身長差はおそらく二〇センチ以上だろう。彼女の頭が一段したにある。
 大山さんは俯いたまま何も話さない。もちろん、僕だって話しかけない。ただ黙々と歩くだけ。
 気がつけば学校が見えるところまできていた。
「ねぇ」
 大山さんが沈黙を破る。
「昨日のこと………やっぱ怒ってる?」
 いえ、全然。むしろ僕が悪いんです。ゴメンナサイ。なんてスラスラと言えるわけもなく僕は「いえ…」と短く答えた。
「ホントに?」
 大山さんが僕の前に立ち、僕の顔を見上げてくる。上目遣いで僕の顔を見る大山さんは………ちょっぴり可愛かった。
「ホントです」
 今度はハッキリ答える。そう、君には怒っていない。僕は自分自身に憤慨しているんです。
「そっか。良かったぁ」
 と大山さんは満面の笑みを浮かべ、エヘヘと笑った。今度は………ものすごく可愛かった。
 
 彼女とはうまくいけそうである、と僕は根拠のない確信を得た気がした。
 
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