現実主義者の憂鬱

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第3話A

 よく恋愛小説や漫画などを読んでいて思う。
 放課後の教室に残る2人の男女。夕焼け色の太陽の光が窓から差し込み、教室を明るくする。
 そこに、机をあわせて2人真剣な面持ちで仕事をする。
 教室の中には、シャーペンが走る音に2人の呼吸、そして黒くのびる陰しかない。
 やっと仕事が一段落して、ふと顔を上げたときにお互いの目があった。
 女は頬を赤らめ、男は思わず目線をそらして笑う。そんなお互いの反応がおもしろくて、女も吹き出して笑う。
 夕日はさらに傾き、教室もだんだんと暗くなっていく。窓から見える夕日。その光に重なるように映る2人のシルエット。
 そして日が沈む瞬間に、そのシルエットの先が重なる―

 なーんて、そんなロマンティックなことになったらいいなぁ、なんて思ってた時期もあったわけよ、私には。
 そして、私はそんなシチュエーションがあり得そうなクラス委員になった。
 そう!憧れる男女2人で残る教室を演じることが可能なのだ!
 だが、私の憧れともいうべき妄想は、早くも打ち砕かれた。目の前の男―
 ―赤坂周一の手によって…

 早々と、登校時の意気込みは消え失せ、だらだらと家へ向かう急な坂道をゆっくりと歩いていく。右手は何とか鞄を手にしているが、左手はだらんと垂れ下がったままだ。
 そんな私の周りに、うるさいすべての元凶が1匹。
「香奈ぁ〜、ホントごめんってぇ。まさか赤坂君がクラス委員になるなんて思ってもなかったのよぉ〜」
 さっきから由喜はこの調子だ。本気で謝っているのかどうかすらわからない謝罪の言葉を述べている。
 ええい!さっきから変に甘い口調で何言ってんだ!少し黙れ!耳障りだ!
「うぅ、ゴメンナサイ…」
 由喜はしょんぼりと肩を落とす。まぁ、いつものことだ。すぐにケロリと立ち直るだろう。
「でもさ!赤坂君って格好いいじゃん!この際だから彼を落としちゃえ。香奈、結構かわいいんだしさ」
 ほら、ね。早速目をきらきらと輝かせながら私に詰め寄る。この立ち直りの早さは何なんだ。つーか絶対にさっきのは演技だったな。
「何言ってんの。あいつなんて眼中にないわよ。どっちにしろ、あんなのどつく勇気だってないわよ。それに、私堅物って苦手。近寄り難いしさ、赤坂って」
 私は由喜にしっかりと言ってやった。うん、あいつなんて私の好みじゃない。…格好いいけどさ。
「う〜ん。でも結構チャンスだと思うんだけどなぁ…。私なら落としにいくわね、絶対」
 隣で歩く由喜は赤坂を落とした自分を想像したのか、ニヘラと笑う。気持ち悪!
「はっはっは。なーに妄想してるのよ。どっちにしろ、私は彼に興味なんてないわよ。あんなのと付き合ったりするなんてぜぇぇったいできない!真面目は苦手なのよね。つーか嫌」
 由喜はハハハと苦笑いを浮かべながら私の方を向いた。その顔がこっちに向いたとき、由喜の表情が一気にこわばった。え、何?何?
「………真面目で悪かったですね…」
 不意に後ろから声が聞こえたので、私はバッと振り返る。そこには―
 ―今の話の主人公「赤坂周一」がいた―
「あ…」
 開いた口がふさがらない。さっきの話、もしかして全部聞いた?
「ああ、最初から最後までみっちり」
 さらに口が開く。あごが痛いな。で、なんでそこにいるの?
「あの書店に立ち寄ってました。それにこの道の先が僕の家」
 私はその指さされた方向を見る。確かに小さな書店があるな。で、なんで最初から聞いてたのさ?
「それは出てきたところに君たち2人がいて、特に君は…えーっと大山さんだっけ、は同じクラス委員だったから挨拶しようとしたら君たちの会話に僕の名前が出てきましたから。気になって耳をそばだてていました」
 な、なんで盗み聞きなんてしたのよ!私はそんな気分になるが、残念ながらこの話の内容はいいことばかりではないので、あんまり大きな口はたたけなかった。そんなモジモジする私を見て、彼はふぅ、とため息も漏らし
「まぁ、大山さんが僕をどう思っていようと勝手ですからね。では」
 そう言って、赤坂は足早にその場を去って行った。彼の陰はどんどんと遠くにいき、そして私たちの目から見えなくなった。
 そこに取り残された2人とその陰。
「…マズイね」
 由喜は彼が歩いていった方向を見て呟く。
「…やっぱし?」
「うん」
 即答。
 まぁ、そりゃそうだろう。赤坂は同じクラス委員。残念ながらこれから1年間、一緒にいろいろと仕事をする仲だ。なのに、最初からこんな険悪な雰囲気だとこれから先、気まずい。つーかさっきのシチュエーションなんてもってのほかだ。論外だ。
 
 あんなタイミングで赤坂が現れるなんて…。私の運の悪さどうやら、新たな学年になっても私を苦しませるようだ。
 頭を悩ませる種が増え、私は眉間にしわを寄せながら、帰路についたのであった。
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