現実主義者の憂鬱

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第2話B

 新たな学年になった。我が高校では、といっても大抵の高校でもそうだが、学年が上がるごとにクラス替えとやらが行われる。
 また憂鬱な1年が始まるのか、と思うと気分は沈み、鬱々とした気持ちで僕は新たなクラスの自分の席でボーっとしていた。
 辺りではこれから否応なしに顔を合わせることになるクラスメート達の楽しげな声が聞こえる。自らもその輪の中に入りたいという願望はあるが、残念ながらその輪の中に入れそうもない。
「なかなか良い面子が揃ったじゃん」
 辺りをキョロキョロと見回し、自分の席に着く女の姿が目に入った。その女は僕の姿を見ると、すぐ隣にいた仲の良さそうなもう一人の女と話し始めた。たぶん僕のことを話しているのだろう。
 僕は再び窓の外を眺める。窓は少し開いていて、そこから春の香りが風と共に入ってくる。
「なんだか付き合いにくそうな人と一緒のクラスになったね」
 突然耳に入ってきた言葉に僕は敏感に反応する。その声の主は、さっきの女子達からだった。

 ―やっぱりそうなのか―

 僕の気分は一気に深海の奥底にまで落ち込み、なんだか泣きたい気分にまでなってしまった。畜生め。

 担任と思われる先生が勢いよく教室のドアを開ける。
「ほら、みんな座れよぉ。ホームルーム始めるぞぉ」
 なかなか若そうな先生であった。名を大垣というそうだ。大垣がむさ苦しい自己紹介を終え、みんな始業式のために廊下に並ぶ。僕は名簿番号1番なので先頭に並んだ。
 その隣に、さっき僕のことを話していた女子がいた。そいつはコソコソと僕の方を見ている。全然良い気分じゃない。
 
 全校生徒が一同に体育館に集まると、一気に中の気温が上がる。まぁ、まだ春先なのでそれほど熱くはならないけどさ。
 なかなか立派な禿頭を持つ校長の話が始まる。僕はボーっとしたまま前を向いていた。あんな話、一体何の役に立つのだろうか、疑問だ。
 先ほどから視線を感じる。隣からだ。俺はコッソリと横目で隣を見る。さっきの女子が俺のことを見ていた。何見てんだよ、とか言いたくなったがあいにく式中なので俺は口を紡ぐ。
 それにしても、このようなことがあると本当に自分は周囲から浮いているのだということをひしひしと身に感じる。
 こんなことは慣れっこだ、と自分に言い聞かせても、残念ながら僕はそこまで強い存在ではなく、やっぱし誰かと一緒にいたいという願望が何処かしら自分の中にあるのである。
 しかしだ、僕は現実が分かっている。今の現実では僕は独りでいる方が得策なのだ。周りのみんなとは表面上の付き合いをし、深く関わらなければいいのだ。今の状況の脱却は大学になってからでも遅くない。中学・高校と同じミスをして、大学でも同じことをする可能性は低い。うん。そのはずだ。
 前ではまだハゲ校長の長ったらしい演説が続いている。そう、この演説のような表面的なことだけを述べていけばいいの。感情も何もにない、ロボットみたいな付き合い。それが一番楽だ。
 校長が壇上から下りる。今日はあと学級で役員を決めて解散だ。早いところ家に帰りたい。こんな居心地も良くないところに長居は無用だ。
 
「はい、ではまずクラス委員を決めたいと思う。みんな誰でもいいから推薦してくれ」
 大垣の大声がクラスの中に響く。その声に反応して、一人の女子が手を挙げた。って、さっき僕のことを話していた片割れじゃないか。立候補でもするのだろうか。
「女子のクラス委員に大山さんを推薦します」
 なんだ、推薦か。一体誰が推薦されたのかを確認する、たいがい、推薦されたやつは「なにしてるんじゃー!」って推薦したやつを睨んでいるはずだ。
 ほら、やっぱりそうだ。
 そいつはもう一方の女子。さっき僕の隣にいて、ずっと僕の方を見ていたやつだった。
 アッと今に彼女はクラス委員になった。へぇ、中学の時に副会長やってたんだ。
 男子のクラス委員は全然決まらない。なんせ誰も立候補しないのだから。
 大垣はクラス全員に白い紙を配った。その紙に推薦する人の名を書けというのだ。僕は面倒くさかったので名簿番号2番のやつの名を書いてやった。
 大垣が紙を回収して、開票し始める。僕はボーっと窓の外を見る。誰がクラス委員になるかなんて全然興味ない。
「ううむ。なんだほとんど同じ奴に入れてるじゃないか」
 どうやら結果が出たようだ。僕は耳だけその結果に傾ける。
「と、いうことで選挙の結果、男子クラス委員は赤坂に決定しました。はい、みんな拍手」
 ああ、赤坂ね。はい、拍手。
 ………って僕じゃん!
 数秒フリーズし、僕は覚醒した。どうやら僕がクラス委員になったらしい。
 僕はこれから相方になる大山(だったっけな?)の顔を見る。彼女は信じられないって顔をしている。
 そんな顔を見ると、無性に腹が立ってきた。そして、これからそんな面倒くさい仕事をしなければならないのかと思うと、気分はより一層沈んでいった。
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