現実主義者の憂鬱
第2話A
うざったい始業式が始まった。
何故、学校というものはこうも、このような式を行うのだろうか。私には到底理解し難い。
隣に並ぶ赤坂の顔をコッソリと見る。彼は憮然とした表情で、壇上のハゲ校長の話を聞いていた。
彼の顔を見るには、結構顔を見上げなければならなかった。彼の身長は約百八十五センチ。それに対し、私は百六十センチ。二十五センチもの差がある。
とにかく彼は大きい。そしてかなりたくましい体型をしている。剣道で鍛え抜かれたのだろう、制服の上からでもそのたくましさが分かる。
そしてカッコイイ。彼の目は大きく、そして髪の毛は異様に黒く少し癖がかかっている。口元ははっきりしていて、鼻は少々高い。
まさに美形少年だった。私だってあの顔を見ればクラッとくる。
もちろんそれだけカッコイイ彼なのだから女子のファンだって大勢いる。しかし、彼には大きな欠点があった。
―女には興味ない―
まさに真面目な彼らしい一言だ。
彼にアタックした女子たちはそりゃもう酷い仕打ちにあったとか。直接告った娘は「これは一時の気の迷いだ」と軽く流され。手紙ならそのまま返品。友達を通じてなら「馬鹿な奴」と、冷淡に言われる。
あまりにも冷淡で、酷い仕打ちの為か、今では彼に近づく女子などいない。
影では孤独な剣士などという異名まで持っているそうだ。
気がつけばハゲ校長の話が終わり、各クラス、体育館から退場を始めていた。ああ、始業式が終わったのか。
今年の始業式は、退屈しなかった。
今日は、あと学級で委員などを決めたら下校である。
「はい、ではまずクラス委員を決めたいと思う。みんな誰でもいいから推薦してくれ」
大垣の低くてでかい大きな声が響く。みんなは誰にしようかあちらこちらで話している。
「はい!」
由喜が手を上げる。何?立候補でもするのかな。
「お、中嶋だっけ?どうした?」
「女子のクラス委員に大山さんを推薦します」
ああ、推薦だったか。って推薦の相手は私?
由喜は私のほうを向いてウインクをする。何してるんじゃぁぁ。私は心の中で絶叫した。でも、推薦だけならなるとは限らない。しかぁし、推薦だけで終わるなんて虫のいい話、私にはあり得ないのだ。
クラスの中はざわつく。そして、クラスの誰かがこう言った。
「そういや大山って中学で生徒会副会長だったらしいなぁ」
「え、そうなんだ」
「じゃあいいじゃん、大山で」
あっという間に満場一致。私は女子クラス委員になってしまった。
さて、もうクラス委員になってしまったからには仕方ない。今まで私に降りかかってきた悪運の中ではまだ低レベルなものだ。どうってことはない。私は切り替えが早いのだから。
だが、気になるのは男子のクラス委員。同じクラス委員だから結構一緒に居る時間が長い。気の合うような奴じゃないとこれから一年間大変だ。私は男子のクラス委員が決定するのを固唾を呑んで見守った。
男子は結局推薦も出なかったのでみんなに紙を配ってそこに各自推薦する人の名前を書いてもらうことになった。まぁ簡単に言えば立候補者なしの選挙だろう。
私は適当にクラスを見渡す。最初に目に飛び込んできたのは前のクラスでクラス委員をやっていた中川だった。
彼の容姿もなかなか女子の目をひいていた。
しかも、彼は気さくでおもしろく、運動神経も抜群、そして頼りがいがあるという人気男子の筆頭だった。私も少し憧れてたりする。
私は紙に「中川」と書く。どうか中川と一緒にクラス委員できますように。
紙に念を込め、大垣の持つ箱に入れる。
投票が済み、大垣が箱をひっくり返して開票する。私はその様子をじっと見つめる。
大垣が紙をわけていく。投票された人をわけているのだ。バラバラだった紙が重なっていく。すると、一人、かなり票の入っている人がいるのが分かった。小さな紙の山ができていたからである。
「ううむ。なんだほとんど同じ奴に入れてるじゃないか」
大垣は集計が終わるとそう呟いた。誰だ?誰なんだ?中川か?中川なんだろうな?
「と、いうことで選挙の結果、男子クラス委員は赤坂に決定しました。はい、みんな拍手」
なにぃ!赤坂だと!
クラス中から拍手がおこる。しかし、私は放心状態で、窓を見つめた。
彼とは関わらないでおこうと、さっき決めたばっかりなのに…。思いっ切り関わってしまうことになってしまった。私はなんて運がないのだろうか。さすがに切り替えの早い私でも、これだけは開き直ることができなかった。
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