不幸の理由。作者の溜め息。
その3
そして、気がつけばこんな時間。辺りはすでに暗くなり、外灯がチカチカしている。へとへとの身体を引きずりながら公園へとはいる俺。
ベンチに腰掛け、何か飲もうと思ってポケットに手を突っ込む。見事に財布をなくした。ナイスタイミングだ。
仕方ないのでさっさと家に帰ることにする。が、ポケットには鍵の感触はない。たらりと汗が流れ落ちる。ううむ、どうなったか想像もしたくないわ。さらに哀しくなるだけではないか。
が、事実は事実だ。認めよう。俺は家の鍵をなくした。うぉーい、なんてこったい。家にも帰れねぇのかよ!
途方に暮れる大和田勇気十六歳彼女無し、やーさんに追われている高校二年生。しかも、今のところ宿無し文無し根性無し。不幸だ。いくら何でも不幸すぎる。一杯のかけそばなんて比じゃねぇぞ、こらぁ!
と、立ち上がって叫んでみるも虚しいだけ。それどころかたまたま公園前を通りかかった若いねぇーちゃんに見られた。目が合うやいなや逃げるように立ち去るねぇーちゃん。ホントに通報されるかも。
大きな溜息をついて再び腰を下ろす俺。途方に暮れる。どうしようもないってこんな状況のことをさすのか、祖父ちゃん。
もはやあまりの不幸に泣く気力もない。
昔から俺は不幸な男だった。
これだけ立て続けに不幸が起こっているのに、それが十六年前から続いているのである。
生まれてすぐ。看護婦さんが手を滑らせて俺を床に落とした。
幼稚園。シーソーで遊んでいたら友達が反対側に一気に三人も乗り、男として重要な箇所を強打した。
小学校低学年。先生が手を滑らせて飛んできたチョークが額に刺さった。
高学年。跳び箱の授業で飛んだ瞬間、跳び箱が何故か崩れ生き埋めになった。
中学。なんか知らんが蛍光灯が堕ちてきて頭に直撃した。しかも三回も。
そして高校。こんな風になっている。離婚騒動に彼女に振られ、そしてやーさんに追い回される。
不幸だ。やっぱりいくら何でも不幸すぎるぞ、俺。
どうしてこんなにも俺は不幸なんだ。今までの行いを振り返るも、至極まっとうな人生を歩んできたはずだ。それほどころか善行に励んできた人生じゃないか。川でおぼれた子を救ったし。あ、それは救ったその後、俺が流された。自然保護を訴えた募金に参加したし。こっちは確か集めた金を誰かが持ってとんずらされた。
って、どれもこれも不幸きわまりないじゃねぇーか!
理不尽だ! いくら何でも理不尽すぎる。
この世の中、こうして健気にひっそり、地道に生きている人がこうも苦しみ、へらへらと生きているやつが幸せなのは何でだ! いくら何でもおかしすぎるだろ!
俺は運命って言葉を信じる男だ。こうなったのもきっと一種の運命なのだろう。偶然ではなく、必然。必ず起こりうることだったのだ。だから、俺の身に不幸が降りかかることも必然。運命の一つなのだ。
まぁ、そこはそこで納得しよう。百歩譲って仕方ないとしようじゃないか。
でも、でもだ。
何で俺はこうも不幸なんだ?
そうだ。理由だ。理由が欲しい。
俺が不幸である理由。こうもアンラッキーな出来事が立て続けに起こる理由が欲しい。その理由が納得できるものならば、俺はこれからもその運命を甘んじて受けようじゃないか。
だいたい、運命とか必然っていうのは多くの選択肢の一つだろう? なのに、何で多くある中の一つが必ず起こると決まるんだ。何でそれじゃないといけないんだ?
ああ、もう! 訳がわかんなくなってきた。
簡単に整理すれば不幸な理由が知りたい。それだけなのだ。
理由がないのに不幸だなんて、ホントおかしすぎる。世界に溢れる不幸が一定量なら、それは全世界の人々に分配すべきじゃないのか。
「あー、もう! 誰か責任者出てこい――!」
「はいはいー♪」
そして、冒頭に戻る。
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