僕らの学園
第9話
キャンプも終わりに近づき、今日は四日目。さて、今日もしっかり働くか。
「は、一君! 大変よ!」
由喜さんが血相を変えて僕のほうへ走ってきた。
「ど、どーしたんですか?」
「小学部の三人がいないのよ」
「ええ!」
由喜さんから話を聞くと小学部の大山大助、山本俊介、中西太郎の三人が今日の朝からいないというのだ。この辺りを探したがいなかったらしい。この三人は悪ガキ三人組としていつも悪戯をしたりしていたらしい。
「とりあえず探すしかないでしょうね」
僕はあの三人組を探しに、由喜さんはとりあえずみんなの食事などを指示した跡に合流することになった。
「先生、私も手伝う」
すぐ近くで話を聞いていた西山さんも言う。
「いや、いいよ。君は下級生の面倒をしっかり見てやってくれ。探すのは先生たちでやるから」
「で、でも……」
僕は笑って西山さんの頭をなでしっかり頼むよ、と言ってあの三人組を探しに出た。
森の中を探し回って早四時間。未だにあの三人組は見つからない。一体どこに言ったのだろうか。由喜さんとも合流し必死の捜索を続ける。
「ったく、あの子達ったら一体どこに行ったのやら」
「ホントですね」
「あーあーあー、もう見つけたらこってり絞ってやる」
由喜さんの発言に殺気がある。これは本気かも。しかし、あの三人組は見つからず。由喜さんは夕食の用意をしなければならないので先にキャンプ地に戻ってもらった。やばい。本格的にやばい。この森は広いので小さな子供が自力で寮に戻れるわけがない。それにもう辺りは暗くなり始めている。早く探さないと。僕は暗くなり始めた森の中を走り回った。
ビュッ!
「わっ!」
強い風が吹き抜けた。僕は思わず顔を右に向けた。すると、目の前に人が通ったような痕跡のある茂みがあった。もしかしてここを通ったかもしれない。僕はその茂みの道を進んでいく。すると線路に出た。その線路沿いをひたすら走った。すでに当たりは真っ暗だ。しかも線路の上。電車が来るかもしれない。もし線路の上にいたとしたら大惨事になりかねない。すると遠くに小さな人影が見えた。
「大山君! 山本君! 中西君!」
三人は線路のど真ん中で座り込んでいた。すぐ向こうに電車が見える。
「くっ!」
僕はその三人を線路から外に投げ出した。目の前には電車。
カッ!
気がつくと僕は線路のすぐそばに寝そべっていた。
「た、助かった」
どうやら足が少しかすっただけで済んだようだ。怪我もない。見るとすぐ隣にあの三人組が心配そうに僕を見ている。山本君は泣いている。
「よしよし、怖かったね」
そう言って僕は三人を抱きかかえた。すると、あとの二人も泣き出してしまった。
「どうしてこんなことを?」
僕はなるべく優しく、頭をなでながら尋ねた。
「ぼ、僕ら…ひっく、、おうちに……えぐっ…帰ろうと、ひっく…思って、、ご、ごめんなさい」
そのとき、僕はハッとした。この子達は家が恋しかったのだ。親と離れて暮らすことがつらかったのだ。たとえ、親に酷いことをされたとしてもこの子達は親が恋しかったのだ。だから会いたかったのだろう、自分の親に。だから帰ろうとしたのだろう、自分の家へ。
僕はとりあえず彼らを連れてキャンプ地に戻った。三人はちゃんと反省していて、由喜さんは何も問い詰めなかった。聞かなかった。
キャンプも無事五日目を迎えた。生徒全員で徹営。午前中に全て終わり、みんな寮に戻った。その日の夜。
「ねぇ、一君。生徒たちと花火しない?」
僕が部屋で休んでると由喜さんがやってきてそんなことを言った。
「いいですね。でも花火なんてないでしょ? 買いに行かないと」
「じゃーん、実は初日の朝に買ってきたのでした」
彼女は片手に花火の入ったビニール袋を持っていた。なるほど。初日買出しに行ったって言ってたけどこれを買いに行ってたのか。
「おお! よし。じゃあやろうか」
生徒たちを寮の庭に集め花火大会を始めた。
パチパチパチ
「わぁ〜。きれいだなぁ」
あたりで子供たちの感嘆の声が聞こえる。
「よし。みんな楽しんでますよ、由喜さん」
由喜さんのほうを向くと彼女は線香花火をしていた。
「わぁ〜。ほら一君! きれいだよ」
彼女は無邪気な顔をして僕を呼ぶ。
「ああ、ホントですね」
線香花火の先の玉が次第に大きくなって落ちた。由喜さんは立ち上がりビニール袋をあさりだした。
「由喜さん?」
「じゃーん! 超特大打ち上げ花火!」
彼女の手には超特大と書かれた花火が握られていた。
「おお、いいですね」
「でしょ、でしょ。さぁみんなやるよぉ!」
ヒュウ〜……ドドーン!
「おお〜!」
ヒュウ〜……ドドーン!
「おおお〜!」
星が輝く夜空に、赤・青・黄の花火が広がる。それはとても美しかった。消え行く花火とともに、夏のキャンプは幕を閉じた。
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