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僕らの学園

第6話

 次の日、授業が終わりまた夏休み企画の準備をしていた。職員室で用具の手入れをしていると、西山さんが入ってきた。
「あ、あの先生。ここで勉強してもいいですか。分からないところをすぐに質問したいんで」
「ああ、いいよ。そこに座って」
 僕は来客用の席を指さした。彼女はそこに座って黙々と勉強しだした。僕は手を止め、彼女の横に座り問題を見た。……ことごとく間違っている。これはひどい。しかし彼女の顔は真剣そのものである。
「西山さん、言っちゃ悪いけどこのページの問題、全部間違ってる」
「え、ウソ!」
「ホント」
 彼女はすぐに解答を確認したがやっぱし全部間違っていた。
「ああ、どうしよう。もう夏だというのに……」
 瞬く間に、彼女の目に涙がたまっていく。
「に、西山さん。大丈夫だよ。僕がまた基本から教えてあげるから」
「え、ホントですか」
 彼女の表情がパッと明るくなる。その日、僕は夜八時までみっちりと彼女を教えた。彼女は僕に心を開いてくれたのだ。
「先生」
「ん?」
 帰り道、今日もまた僕は西山さんと帰る。
「どうして先生になったの?」
「小さい頃からの夢だったからね」
「ふーん」
「どうした?」
「私ね、先生がここにきてくれて本当によかった」
 彼女はニッコリと笑い僕を見た。
「ありがと」
 その日、夜空には雲一つ無く、星がさんさんと輝いていた。



 西山さんに勉強を教えながら、僕は夏休み企画の準備をしていた。由喜さんも手伝ってくれるようになり。やっと一段落つけるところまできた。
「いや、ホント助かったよ」
 僕は由喜さんに缶コーヒーを差し出し礼を言った。
「いや、いいって。私もここの先生だし一君にまかせっぱなしじゃ駄目でしょ」
「でも、結構力仕事が多かったから」
 すると由喜さんが身を乗り出し僕の鼻をつまんだ。
「な〜に言ってんの。女だからって甘く見ないでよ」
「す、すんません」
 そして、二人は顔を見合わせて笑う。
「あのね一君。私秘密の場所知ってるんだ。一緒に行かない?」
「秘密の場所?」
「そう。秘密の場所」
「僕に教えてもいいの?」
「いいから行こうって言ってるじゃん」
 そう言うと由喜さんは僕の腕をつかんで引っ張っていく。なんかかなり力が強い。僕は素直について行った。すでに時刻は九時を回っているので辺りは真っ暗である。由喜さんはこの暗闇の中をずんずん進む。すると、少し明るく広い場所に出た。
「わぁ」
 僕は思わず感嘆の声を出した。目の前にはたくさんの星。
「ここはね、よく星の見える場所なんだ。こんな田舎でもこれだけ星が見える場所は少ないんだよ」
「へぇ。って、わぁ!」
 突然由喜さんが僕の胸に飛び込んできて、その勢いで僕は芝生に倒れた。
「……ありがと」
「へ?」
「い、いやなんでもない」
 そう言うと由喜さんは僕の上からどいて隣で大の字になって寝転んだ。
「きれいっすね」
「そうだね」
「ずっとこのままだったらいいのにな」
「え?」
 僕は本当にこの時間が続いてほしいと思った。由喜さんと一緒に居たかった。そんな気持ちが僕の中にあった。満天の星空。心地よい夜風が二人の間を吹きぬけた。
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