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僕らの学園

第5話

 僕はあの日から、少しは自信を持って生徒と接することができるようになった。相変わらず藤見君は嫌味なことを言うけれど、僕はくじけずに生徒たちと接した。
 そして僕は感じた。
 少しずつ、生徒の心が開いてきていることを。
 そうしてあっという間に二週間が過ぎ、夏休みがすぐそこまで来た。
 と、いってもこの学園の子供たちには帰る場所はない。夏休みもこの学園、寮で過ごさなくてはならないのだ。夏休みは生徒のリフレッシュ、また新たなる体験、生徒同士の親睦のために用意されているのだ。
 この夏休みの間も、先生は大忙しである。生徒たちのためにさまざまな企画を用意しなければならない。
 幸い、田舎で自然も多いのでさまざまな企画を考えることができる。しかし、一ヶ月もの長い休みである。有意義に使うために、為になり、しかも楽しい企画を考えなければならない。夏休みを前にして、職員室で大人三人が頭を抱える。
「さて、夏休みの企画については困りましたねぇ」
 校長先生が呟く。
「ホントですねぇ」
 由喜さんが見ていた書類を机に置く。
「う〜ん……」
 そして、僕は頭を抱え込んで悩む。有意義に過ごすための企画。どうせなら夏休みの宿題も片付けられるようなものがいいな、と僕は思った。思ったことは即実行。
「あの、夏休みの宿題も一緒に片付けられるような企画はどうですか?」
「あ、それいいかも」
 由喜さんが賛同。
「そういえば自由研究の宿題がありましたね」
「おお、校長先生! それはいい。ちょうどここは自然が多いですから自然学習もかねてキャンプはどうですか?」
 僕はこの提案をした瞬間、後悔した。しまった、こんな企画絶対前までに一度はやってるはずだ。しかし、僕の予想は大きく外れた。
「それはいい。ちょうど上宮先生がいるから力仕事は大丈夫だ」
 校長先生が手をポンッと叩く。
「そうですね。ここ十年位してないって話ですからね」
「へ? そうなんですか?」
「ええ、今まで、男手が足りなかったのでその企画、できなかったんですよ。上宮先生がいるなら大丈夫ですね。そうしましょうか」
 あっという間に話は決まり、今夏の企画はキャンプとなった。


 次の日から僕は準備で大忙しだった。なんていったって、由喜さんも校長先生もキャンプに慣れていないのだ。僕は小学から高校までボーイスカウトをやっていたので経験豊富なのである。つまり、やっぱ僕が中心に動かないとだめだということ。
 まずは日程を決める。四泊五日のキャンプと決まった。さて、次は用具の確認である。校舎の物置の中を調べる。チェックリストを作っていたのでそれを見て、あるものにはチェックを入れていく。
「ふぅ、まだまだ終わりそうにないな」
 二十一人が参加するのである。用具だってその人数に相応するくらい必要である。
「しっかしホントいろいろあるなぁ」
 額に光る汗をぬぐいチェックを入れる。この学園は三十年も前にできたらしい。その頃は職員も多く、キャンプも行っていたそうだ。なのでキャンプ用品は一通りあった。けれどどれも古くなっていたので手入れをしなければならない。
「ふぅ。チェックは終わったけど手入れをしないといけないな」
 ふと腕時計に目を落とす。すでに八時を回っている。
「いけね、もう寮に戻らないと」
 僕は物置を出る。昇降口をでて校舎を見ると二階の一室に明かりがついていた。
「つけっぱなしにしたのかな?」
 一応今日は僕が当番なので電気を消さないといけない。ただでさえ経営が苦しいのだ。電気も節約しなければならない。僕は再び校舎に入り、二階へ上がった。やっぱり電気がついていた。しかも中学部の教室だった。
「さっき消したのにな」
 僕は教室のドアを開けた。中には一人の生徒がいて机に突っ伏していた。
「あれ? 誰だ、こんなところで寝てる」
 僕はその子に近づいた。その子は中三の西山春香さんだった。僕は彼女を揺すっておこした。
「西山さん、西山さん。起きてください。こんなところで寝てたら風邪引きますよ。起きてください」
「んあ?」
 西山さんは顔を上げた。口からはよだれが垂れている。僕がいることに気付くと彼女は驚き、そして慌ててよだれをふいた。
「せ、先生!? な、何してるんですか?」
「いや、それは僕のセリフ。何してるんですか? 西山さん」
「じ、実は勉強してまして……」
 西山さんはぽりぽりと頭をかく。
「そーいや、受験生だったな」
「は、はい」
「でも、何で寮で勉強しないんだ?」
「相部屋の子がうるさくて……」
「確か小三の子と小四の子と相部屋だったな。そりゃあ集中できないなぁ。ははは……」
 僕は笑ってみた。しかし西山さんは黙ったまま。いやな沈黙が流れる。
「とりあえず戻るか」
 僕は西山さんを連れて学園を出た。外はもう真っ暗で、月が薄く光っている。
「先生は何してたんですか?」
 西山さんが初めて話しかけてきた。
「えっと、夏休み企画の準備」
 企画内容は一週間前までは秘密なので僕はそう言った。
「ふーん」
 納得するとまた黙る。ただあぜ道を歩く足音しか聞こえない。
「明日も学園で残って勉強するのか?」
「え、ええっと……。どうでしょう」
「よかったら僕が教えてあげるよ」
 すると西山さんが嬉しそうな表情を見せた。満点の笑顔だった。
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