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僕らの学園

第3話

 月曜になった。とうとう生徒たちと会う日が来た。と、言っても昨日の夜からちらほらと子供の姿を見ている。なんていったって同じ寮に住んでいるのだから。僕は身支度を整え、食堂へ向かう。食堂に入ると、先に席についていた生徒たちの視線が一斉に僕に向けられる。
「一先生、おはようございます」
「あ、ああ。おはようございます」
 不意に由喜さんから声をかけられたので僕は返事が遅れた。そして
「では、皆さん。今日から皆さんと一緒に勉強したりする上宮一先生です」
「え、あ。どうも、上宮一です。今日から皆さんと一緒に勉強したりすることになりました。どうぞよろしく」
 僕は深々と頭を下げた。子供たちは無反応……。僕はショックを受けた。
「はい、では朝ごはんを食べましょう。いただきます」
 由喜さんがそう言うと生徒たちは一斉にいただきますと言い食べ始めた。そして由喜さんが耳元でこういった。
「この子達は大人が信用できないの。特に初めて会った人にはね。一君、最初は苦しいけどなんとしても子供たちの心を開かせなさい。そうじゃないとこの学園ではやっていけないわよ」
 そして一目こっちを見てウインクをし、朝食を食べ始めた。
「子供の心を開かせるか……」
 そう呟き、目の前の卵焼きを頬張った。


 朝食を食べ終え、僕は生徒より早く学園に向かった。今日は初授業なのである。
 僕の担当は中学一年から三年生の九人である。彼らは今がまさに思春期の真っ只中。一番気難しい世代である。僕はそんな生徒たちの担任となったのである。
 と、いってもわずかに九人。
 このくらいなら僕一人でもできるような気はしている。
 ただ、彼らは普通の子供たちではない。彼らには深い事情があるのだ。その事情によってこの学園に通っているのだ。
 僕は今まで講師として中学生を教えたことはあるが、このような事情を抱えた子供たちは教えたことがなかった。このようなことを考えると少し自身がなくなった。
 しかし、弱気になってはいけない。僕は生徒たちにいろいろと教えなくてはならない。それが仕事だからだ。僕は頬を二、三回叩いて気合を入れた。大きく息を吸い、そして吐く。できるだけ心を落ち着かせる。
そして、職員室で授業に必要なものを用意、確認をする。学年が違う子供たちが一緒に勉強するのだから、この学園では一風変わった授業をするらしい。それは、五教科(数・英・国・理・社)は同じ学年の子供達で集まり、教材の要点などを読んで、友達と一緒に考えながら問題を解いていく。そして、分からないところや、大切なところを先生が教えるのだ。そうすることによって、異学年の生徒を一人の先生で教えることができるのだ。
これは一見、先生は楽そうに見えるが全然楽ではない。先生は生徒の理解度をしっかりと把握し、進み具合などもしっかりと管理しないといけない。クラスのさまざまなところに神経をとがらせねばならないのだ。もちろん、見落としなどがあったら大変だ。生徒達がこの学園を出て、ちゃんとした社会人になれるように僕らは全力を尽くさねばならない。僕は必要なものの確認を終えると時計を見た。
「八時半か」
 この学園では午前の授業は九時から始まる。まだ三十分の余裕がある。その時、ふと思った。この学園では職員会議はあるのだろうか? 朝の打ち合わせとかしなくてもいいのだろうか。少し不安になる。すると由喜さんが職員室に入ってきた。
「あら、もうここに来てたんだ。早いね」
 右腕にいろいろと書類を抱えている。
「そういえば職員会議ってあるんですか?」
 僕はさっきの疑問を質問した。
「あるわよ。そりゃあ一応学校だからね。まぁ職員会議といっても校長と一君と私だけだけどね」
「え、何時から?」
「朝の六時半」
 僕は呆気にとられた。朝の六時半だって? 僕はまだ寝てたじゃないか。なんてこった。僕が少し焦ると由喜さんが言った。
「ああ、今日は大丈夫だから。ほら、職員会議の時間言ってなかったでしょ。だから今日は大丈夫。でも明日からはちゃんと参加するんだよ」
 僕は少しホッとした。
「でも、何で朝の六時半からなんですか?」
 僕は次なる疑問を質問した。
「それはね。生徒達の面倒を朝から見ないといけないからよ。だから朝が早いの。大抵生徒がやるんだけど、食事は職員で作ることになってるの。だから朝が早くって。職員会議をする暇が朝しかないってわけ」
 なるほど。と、僕は納得した。でも……あれ、食事は職員が作るって?
「……ってことは僕も食事を作るのをお手伝いしないといけないってこと?」
 由喜さんは笑って答えた。
「ははは。大丈夫。食事は私と校長の奥さんが作るから」
「ああ、そうか」
 僕は安心した。僕は料理がからっきし駄目なのである。
「でも、校舎や寮の補修は校長と一君の仕事だからね」
「はい。了解っす」
 由喜さんはよろしい、と言うような顔をして時計を見た。
「おっと、そろそろ行かないと。じゃあね。あ、一君の担任の教室は二階の一番奥の教室だからね」
 そう言うと由喜さんは荷物を持って慌てて職員室を出て行った。
「よし、僕もそろそろ行くか」
 僕も荷物を持つと、職員室を出た。廊下に初夏の心地よい風が吹いた。
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