Every Day!!
3-9
佐川さんとのデートを、見事にぶちこわしてくれた連中の顔を見る。その中に和彦がいるのは当たり前で、泉田姉妹に花梨までもがいた。どいつもこいつもなんだかいやぁな、感じの笑みを浮かべている。
が、その中に一人、少しばかり落ち込んだ顔があった。
――えっ――
何で。その言葉が一番に浮かび上がる。
佐織がいた。何故か知らないけど、佐織がいたのだ。
俺と目が合うと、佐織は小さな笑みを浮かべる。一体どういう経緯でここに来たのか。サッパリ分からない。
内心の動揺を何とか押し隠し、俺は大きく溜息をついた。
「お前らなー、一体何しに来たんだよ」
「そんなの決まってんじゃねーか。佐川さんとデートしに行ったお前がオオカミさんにならないように見張りに来たのだ!」
「ってそんな大声でとんでもないことを言うな!」
和彦をぶん殴ろうとした俺を、拓也が何とか押しとどめる。
「まぁまぁ、大にぃ。みんなちょっとした好奇心だって。それに、ほら……」
そう言って、拓也は佐織の方を目配せした。ああ、そうか。和彦も一瞬だけ、ニヤニヤとしたやらしい笑みが消え、真剣な顔になった。
「ま、そういうことだ」
心配してくれたのか。俺はその言葉を飲み込む。俺と和彦の間じゃ、そんな言葉はいらないか。
「とりあえず、どうするんだ?」
全員の顔を見渡しながら、俺はそう言った。残念ながら、佐川さんとの2人っきりコースは使えないからな。
「えっ、もしかしてみんなで行くの!?」
佐川さんは結構驚きの表情。ていうか、そう言うつもりでの苦笑じゃなかったのですか?
「そんなわけないじゃん! 私はただ……」
「ただ?」
「……ううん、何でもない。もぅ、仕方ないな。みんなで行こう」
佐川さんのよく分からない言動に首をかしげならが、結局7人で行くことになったのだった。
佐織の浮かない表情が、脳裏に焼き付いたまま離れない。
ジェットコースターなどの人気アトラクションをある程度回り、昼時になったので昼食を取るためにレストランに入る。
「みんな、何食べる?」
野外の席のため7人ではさすがに1つのテーブルに全員座れないので、俺たちは2つのテーブルに別れた。何故だか知らんが、俺のテーブルは花梨と佐織と俺の3人。佐織と気まずいのだが、まぁ、花梨が場を和ませてくれるだろうから少しは安心だ。
「あ、私このサンドウィッチ食べる!」
相変わらず、花梨は元気だな。俺はメニューを佐織の方に見せ、何を食べるか尋ねる。表情に少しは明るさを取り戻したものの、相変わらずどこか陰りのある表情を佐織は浮かべていた。
「え、えっと、これ。ミートスパゲティー」
「オッケ。分かった。えーっと、店員さーん!」
店員を呼んで、手際よく注文する。客があまりいないレストランを選んだので、結構早めに料理は出てきた。やっぱし、遊園地のレストランだ。味気ないラーメンをすすりながら、俺はそう思った。第一、いろんなメニュー、用意しすぎなんだよな。こういうところは。
「午後はどこ回る?」
早く食い終わった俺は、まだサンドウィッチを口に運んでいる花梨に、スパゲティーをなんだか控えめに食べている佐織に尋ねた。
「どこ、行こうかなぁ……」
顎に人差し指を当て、考える花梨。相変わらず浮かない表情の佐織。何とも対極的な二人だ。
「とりあえずさ、お化け屋敷とか行こうよ」
「あ、それ、さんせーい!」
と、突然後ろから恵里が顔を出してくる。
「いいんじゃねぇの。ここのお化け屋敷、結構人気だし。近くにいい感じのアトラクションもあるしな」
和彦も賛同し、
「そうだな、そうするか」
というわけで、午後一発目はお化け屋敷に決定。勘定を済ませ、早速俺たちはお化け屋敷に向かう。
お化け屋敷の入り口には明らかに不審な身なりをしたおじさんがいた。
「な、何なんだろ、アレ」
地味に怯える恵里。佐川さんも、気持ち悪そうな目つきでその人を見ている。
夏も近いというのに、真っ黒の長袖シャツをぴっちり着て、サングラスに麦わら帽子。ちょび髭、短パン。そんなおじさんが、お化け屋敷入り口をウロウロウロウロ。明らかに危ない。
「とりあえず、さっさと行こうぜ」
俺たちはそのおじさんの脇を通って中に入ろうとした。その時だった。
ぱーんっ!
「おめでとーございますぅ!」
突然何かの発砲音が聞こえたかと思ったら、頭上から何故か紙吹雪。お化け屋敷の入り口からは『祝☆百万人目のお客様♪』とぶら下がっている。
つまるところ、記念の数を見事に踏んだということだ。
職員が何名か俺たちに近づいて花束を渡す。一様に笑顔だ。
「いやぁ、おめでとうございます。当お化け屋敷アトラクション、見事百万人目のお客様でございます」
俺たちの中の誰が百万人目なのかは甚だ怪しいが、とりあえず代表で和彦が花束を受け取った。なんか図々しいな、おい。
すると、さっきの怪しいおじさんがニコニコと近づいてきた。そして、両手を広げてこう言った。
「いやぁ、めでたい。オメデトウ諸君。君たちには豪華賞品をプレゼントだ!」
誰だよ、こいつ。という目で俺たちはおじさんを見る。そんな視線に構うことなく、おじさんは懐から一枚の名刺を差し出した。
『ヘボラパーク園長 辺暮羅 満(へぼら まん)』
「え、えー!」
「はっはっはー、そんな驚くことないだろー」
怪しげなおじさんは、なんとヘボラパークの園長だった。そう言えば、さっきから周りにいた職員の背筋がピンと張っている気がする。やっぱし、園長の前だからだろうか。
「プレゼントは、このお化け屋敷を使ったちょっとしたゲームだよ」
「げ、ゲーム?」
「そうさ」
ニンマリと笑う園長に、なんだか嫌な予感を覚えた俺であった。
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