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Every Day!!

3-8

 一体、誰がこんな展開を予想したでしょうか。
 げんなりと、深い溜息をつく俺。
 まさに予想できなかった展開。
 人だかりの中、明らかに俺だけがテンションが低くなっている。おそらく。
 きっと、佐川さんだってそうに違いない。
 目の前の、日本最大の観覧車をぼんやりと見つめながら、こうなった経緯を思い出してみた。


 朝10時駅前。
 それが待ち合わせの時間と、そして待ち合わせの場所であった。
 軽く打ち合わせをして――最近はホント便利になった。ケータイのメールでアッサリと打ち合わせができるんだからな――、死んだように眠った俺。
 そして、またあのときのことを夢で思い出す。
 何度も、何度も、何度も。繰り返される光景。
 見慣れた光景に、今やもう何も思わない。
 でも、この日はちょっと違った。
 光が差し込んだ。
 一筋の光が、いつもの光景に、スッと差し込んできた。
 そこで、目が覚めた。
 なんてこった。ワクワクするはずのデートの朝。残念ながら、最悪な目覚めとなってしまった。
 しかしながら、そんなことを気にしているわけにはいかない。時刻はすでに8時。あと2時間ほどで、佐川さんとの待ち合わせ時刻となってしまう。
 心地よい冷たさの水を顔に浴び、身支度を調える。
 着替えてる途中、いつものように恵里が特攻してきたが、これまたいつものように拓也に身柄を引き取ってもらった。本当に、頼りになる従弟である。
 さて、これといった服もないので、いつものように少しラフな恰好――ジーンズにシャツ。そして上から薄いのを一枚羽織るだけというもの――で寮を出る。待ち合わせ場所にはここからバスを乗っていかなければならない。
 さて、丁度やってきたバスに飛び乗り、一路駅へと向かう。
 佐川さんはうちの学園では珍しい都市部在住者である。
 何故珍しいか。それはうちの学園生はほとんどが寮、または近隣に下宿しているからだ。
 己の自立心を育て上げるといってスローガンを掲げている大八橋学園は、寮や下宿を勧めており、その際には金銭的な援助も行っている。
 つまり、寮や下宿に入って、自分のことは自分でできるようになれ、そうしたいのだ。
 だから、学園は山間部にあり、そして都市部から通う生徒は少ない。
 バスに揺られながら、ぼんやりと窓の外を眺める。
 ホント、一面真緑だな。
 若葉が青々と茂り、太陽の光を浴びて輝いている。自然の中の学園というものは実にいい。特に響きが。裏事情は虫だらけですでに3箇所も蚊にかまれていたりする。
 バスに揺られることおよそ30分。駅に着いた。すでに時刻は9時40分。太陽はさんさんと地を照らしている。いい感じに暑くなってきた。
 駅前にはそれほど人は見あたらない。それでも、電車が構内に入ってくるたびに、改札からは多くの人がはき出され、そして慌ただしく散っていく。
 余裕がないな。
 久々に町にでて思ったことはそんなことだった。ま、みんな忙しいんだろう。
 数分後、駅に本日何本目か知らないが、とりあえず8両編成の電車が滑り込んできた。ぷしゅーという音と共に、人がまばらに出てくる。ラッシュの時間は過ぎたからな。
 改札口から出てきた白いワンピースを着た女の子。最初は誰かと思ったが、その顔を見た瞬間、俺は見事に硬直した。
「オハヨ!」
「お、おう」
 何故かどもる俺。仕方ないだろ? デートには慣れてないんだから。
 なんて言い訳にしか過ぎない。目の前にいる佐川さん。なんだか今日は気合いバッチリで、一瞬別人かと思ってしまうくらい可愛く着飾っていたのだ。
 いつもの佐川さんはすごく元気っ娘をアピールするような娘だったのに、今目の前にいる女の子は少し大人しめな清楚な子になっていた。しかし、その中には煮えたぎるエネルギーがあるのは百も承知のことなのだが。
「じゃ、行こっか!」
 とりあえず、可愛さ当社比3倍の佐川さんは、これまた当社比4倍の笑顔を見せながら、俺の腕をぐいぐい引っ張って歩き出す。間抜け面を辺りに見せつけながら、俺もずるずると歩いていく。
 本日の目的地はこの辺りで知らぬ者無しのアトラクションパーク『ヘボラパーク』だ。
 売りは世界1のジェットコースター。そのほかにも様々なアトラクションがあり、東京ディズニーランドとヘボラパーク、どっちがいいと付近住民に聞けば10人に8人はヘボラパーク、と答えるくらいの遊園地だ。つまりは面白いってわけ。
 二人分の切符を買い、電車に乗り込む。
 休日ながらも、さすがに10時前後は混むわけはなく、二人並んで腰を下ろした。
 他愛もない会話を交わしていたのだと思うが、残念ながら記憶にない。そうとう、気合いの入った佐川さんに緊張していたようだ。
 そう言えば、デートなんていついつぶりだろうか。中学2年生の時に、佐織と行ったきりだということを思い出す。
 思わず頭を左右に振っていた。いかんいかん。佐川さんとのデートだというのに違う女の子のことを思ったり何てしたら。
 乗り始めて5つ目の駅で俺たちは降りた。改札口を出て、目の前に現れるのは日本一の観覧車。ヘボラパークはジェットコースターは世界一で、観覧車は日本一なのだ。ある意味、こんな場所にある遊園地としてはすごすぎる。設備投資額を考えるだけで、頭が沸騰しそうだ。
 目線を下げる。なんだか、親しげに手を振ってくる輩が数名。
 そして、最初に戻る。
 げんなりとした溜息。佐川さんとの、二人っきりのデートは残念ながら、ここで終了のようだ。
 思わず、佐川さんと同じタイミングで、苦笑を漏らしてしまったのはここだけの秘密だ。
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