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Every Day!!

3-5

 げっそりとした表情で帰っていく女子部員達。俺はそんな彼女たちの背中に哀れみを含んだ眼差しを送る。
 ――しかしまぁ、あんなに速いとは……。
 そう思いながら、俺は隣を見ると、元気にストレッチをしている玲先輩が目に入った。水着の上に濡れているの激しく問題なシチュだ。見ているのは目に毒なので視線を変える。
 100メートル自由形を泳いだ玲先輩。その速さは尋常じゃなかった。
 まず、部内トップなんてアッサリと抜いてしまった。彼女、インターハイに近い選手なのに。
 それどころか、玲先輩は高校記録に後少しのタイムをたたき出したのだ。ああ、恐ろしや。
 とりあえず、俺もさくっとタイムを計り終わり、今日の部活はこれでお開き。後は帰路につくだけなのだが……。
「おーい、岡野」
「はい?」
 部長の花峰さんに呼び止められる。あ、名前は裕太。水泳部部長でなかなか速い人。
「できればプールの掃除してくれ。ほら、今日早く終わったし」
「あ、分かりました。……って俺一人?」
「おう、あたぼうよ! お前一人、なんか知らんが我ら3年のマドンナ木村さんと仲良くしてるし、それどころか2年の白雪姫、黒沢とも仲いいし。くっそー! こんなことが認められる世の中は理不尽だこのやろー!」
 そう叫びながら、部長はプールを後にする。
「ううむ……、俺ってなんか妬まれてる?」
 とりあえず律儀に掃除しますか。はいさはいさ。ブラシで磨きます。はいさはいさ。
 そして、気がつけばいつもより遅い時間になっていた。


「あー、疲れたー!」
 背伸びをしながら俺は校門へ向かう。まだ日は落ちてないが、それでも辺りは幾分暗い。こりゃさっさと帰らないとな。
 球技大会が終わり、遅くまで学校に残る生徒が減ったので、学園の周りを巡回していたバスが最近は動いてないのだ。まぁ、あのバスは聞いたところ球技大会や体育祭、文化祭の時だけに動いているらしいが。
 グラウンドにもまばらにしか生徒が残っていない。グラウンドは広いので、なんだか寂しい情景だった。
 校門に、女子生徒が一人立っていた。
「あれ?」
 そこに立っていたのは花梨だった。
「よぉ、ここで何してるんだ?」
「あ、大地君」
 俺を見るやいなや嬉しそうに目を細める花梨。
 確か花梨は帰宅部だったはず。何でこんな時間まで残っていたんだろう。
 そのことを俺が尋ねると、花梨は少し慌てた。
「え、ええっと、うーん。あ、そう。先生の手伝いしてたの! 先生の。先生、人使い荒いんだよぉ」
「そりゃあ大変だったな」
 沙希さんなら十分あり得そうだし。俺も今まで何回かあの人の雑用をやらされたことあったからな。
「とりあえず帰るか」
「うんっ」
 俺と花梨は肩を並べて帰路につく。
 そう言えば、こうして花梨と二人で帰るのって久々だな。夕日に映える花梨の横顔を見ながらふと思った。
 最近、結構俺の内面が荒れてたからな。花梨に構った記憶が全然ない。
「そう言えば、こうして一緒に帰るの、久々だよね」
「そうだな」
 思っていたことを口に出され、思わずドキッとする。花梨も同じことを考えていたのか。
「ねぇ、聞きたいことがあるの」
「ん?」
 ととと、と小走り俺の前に回り、そしてくるりと振り返る。
「大地君って、村瀬さんの知り合いなの?」
「へ?」
 あまりの意表をつく質問に思わず聞き返してしまう。
「え、まぁ、うん。そうだよ。中学の時、一緒だったんだ」
 とりあえず最低限、正しい情報を教える。嘘は言っていないのに、後ろめたく感じるのは何でだろうか。
「ふーん、そうなんだ……」
 浮かない顔の花梨。どうした? と聞こうと思ったが、すんでのところで飲み込む。何故か、聞いてはいけない気がしたのだ。
「あのね、大地君」
 真剣な表情で俺を見つめる花梨。真摯な眼差しに俺はたじろいでしまう。そんな姿を、俺は、昔、見たことがある?
「私ね」
 これ以上、聞いてはいけない気がした。でも、俺は何も言えない。動けない。金縛りにあったかのように、身動きが取れないでいた。
 と、その時だった。
 ブロロロロッ!
 聞いたことのある爆音。おやま、これは?
 その音がきっかけで動けるようになる俺。振り返ると、向こうから沙希さんが乗る車が勢いよく走ってきていた。
 そして、俺と花梨の隣で停車する。
「いよぉう! お二人さん。今帰り?」
「見たら分かるじゃないですか。帰りですよ」
「おお、そうかぁ。じゃあ、乗っていく? もう暗いから早いところ帰った方がいいでしょ?」
「そうですね。花梨、ほら、乗ろうよ」
「え、あ、うん」
 俺と花梨は車に乗り込み、車は寮へ向けて発進した。安堵の溜息を、俺はそっとついた。


「あー、もう! わかんねぇよ!」
 シャーペンを放り投げて大の字に寝転がる拓也を、俺は軽く小突く。
「おい、こら。途中で投げ出してんじゃねー。やることはきっちりやる。落ちこぼれたら伯父さんに申し訳ないだろ。ほら、見てやるから」
 その日の夜、俺は拓也の勉強を見てやっていた。なんか、最近成績が悪いんですよ、と伯父さんに相談を持ちかけられたからだ。まぁ従弟だし、ある程度見てやるかということになって、こうして勉強を見てやっている。
「まぁ、そうだけどさー。大にぃ、ここ、どうやるの?」
「ああ、ここはだな、係数調整っていってこうするんだよ」
「何それ、食べられるの? おいしい?」
「バカ言うな。簡単だよ。こうしてかくかくじかじか……」
「あー、なる」
 カリカリと、拓也のシャーペンの走る音。何故か安心する。
 そうして2時間ほど勉強した後、休憩。俺はコーヒーを拓也に渡す。
「あ、大にぃ、サンキュ」
「おう」
 ずずず、とコーヒーをすする。二人とも黙っている。
 不意に、拓也が口を開く。
「なぁ、大にぃ」
「ん?」
「ちょっと、……相談があるんだけど」
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