Every Day!!
3-2
林道をわいわいがやがやと大人数で歩いていく。
もはや大八橋寮名物の団体登校である。
最近は寮に入っている人全員で登校するので一層すごいものになっていた。
「いつ見ても賑やかねぇ」
と、ほのぼのと言っているのはもはや不思議少女の名を思うがままにしている紗英さん。今日もまた一段と不思議なオーラを醸している。
「そうですね。賑やかなのはいいことです!」
と、元気そうに言うのはミス委員長の希美子ちゃん。彼女はニコニコとしながら先陣を切って歩いている。
「おにぃぃぃちゃぁぁああん!」
「あ、ちょ、恵里!」
と、後ろの方で何かやっているのは聞かなかったことにしよう。俺の本能が知ることを拒絶している。
「それにしても、今日も良い天気だね」
「ああ、そうだな」
俺の隣で空を見上げながら言うのは花梨だ。木の葉の間から漏れる日がキラキラと彼女の細い髪を輝かせる。
初夏の森の風がひゅう、と俺たちの間を吹き抜ける。夏まで後少し。日差しは日に日に暑くなってきている。
「それにしても……」
俺は逆隣を見る。そこには全くの無表情で俺を睨む玲先輩がいた。
どうやら、朝から継続して昨日のことで怒っているらしい。
昨日、玲先輩との日課の組み手をすっぽかしたのにはもちろん訳がある。
何て言うか気持ちの整理がしたかったのだ。佐織のことで。
ハッキリ言って今もまだしっかりと整理はついていない。でも、少しは整理がついたと俺は思う。
まぁ、その代わりの代償はかなり高くつきそうなのだが。
「あの〜、玲先輩?」
「……1週間だ」
「へ?」
「今日から1週間。我慢してやるからその後の1週間、必ず毎晩私の気が済むまで付き合え」
俺はハッと玲先輩を見る。すると彼女はふふんと鼻で笑った。
……まぁ、なんていうかすごい人だな。
「ありがとうございます」
「礼には及ばん」
とか言いながらものすごく嬉しそうな顔してますね、玲先輩。
すでに学園は見えてきていて、大きな正門が目の前に見える。
「じゃあ、大地先輩。また寮で」
「ああ、しっかり頑張ってこいよ」
「ああーん、お兄ちゃん! 私にも何か言ってぇ!」
「ほら、恵里。もう行くってば!」
……ううむ、若いって良いね。
ちりちりと日差しは建物を加熱し、気温を上げていく。
団体で無事、学園に着いたはよかった。が、ともかく暑い。暑すぎる。
思いっ切り広大な敷地のど真ん中にある校舎の陰になるものは辺りになく、直射日光が思いっ切り校舎を熱していた。
窓際の席の俺は、その恩恵をもろに受けていたのですでに汗でぐっしょりだ。
「あぢぃ……」
「もう、言うんじゃねぇ……」
ちなみに、俺の後ろで伸びているのは俺の親友であり悪友の河原和彦(かわら かずひこ)だ。同じく窓際の席の和彦も俺と同じく夏に近づきつつある日差しにやられていた。この調子じゃ本当に夏本番になったときが空恐ろしい。地球温暖化の魔の手はここまで来た。
ガタリ
不意に隣から音がして、俺は目だけ隣に移す。すると、そこには仏頂面の俺のお隣さんが教科書などを机にしまっていた。
「……よぉ、須野」
「……おはよ、岡野。朝から何してんの?」
冷ややかな眼差しで俺を見るのはキング・オブ・無愛想な須野加奈子(すの かなこ)女史だ。俺が苦手とする人物ランキング第3位にノミネートされている。もちろんトップを走るのは言うまでもなく玲先輩だ。ちなみに同率1位で玲先輩の相方がくる。
「いやぁ、地球温暖化の手下がすでに今から熱心に活動しているようで……」
「あっそ、」
そう言うと再び作業の手を再開する須野。畜生、涼しい顔しやがって。お前も窓際に座ってみろ! 俺の苦しさが分かるはずだ!
と、見栄を張ってどうにかなるものではなく、やっぱり机に顔を突っ伏してじっとしているほか手だてはなかった。
時計を見ると、すでに時刻は8時25分。後5分でホームルームが始まる。
――佐織は何処のクラスなのだろうか。
爺さんに佐織が転校してくることは聞いたが、何処のクラスかは全く聞いていなかった。同じクラスになる可能性だってある。
とりあえず、その時のために心の準備をしておかねば。そう、暑さに負けている場合ではないのだ。
窓を開け放ち、涼しい風を教室に送り込む。てか、窓を開けていなかったのが暑さの最大の原因だったような気がする。いや、確実にそれが原因だろう。
やっぱりまだ初夏の風は涼しく、さわやかな空気を胸一杯吸い込む。
よし。
あとは席に座ってホームルームを乗り切るまでだ。佐織が違うクラスにはいった場合は今日1日、それほど肩を張らずに過ごせる。
時計の針がスローモーションのように見える。なんていうのは大げさだが、とりあえずゆっくりと時が流れているようには感じた。
わざわざご丁寧に秒針まで付いているこのクラス据え置きの時計はあと30秒ほどでホームルームの開始を知らせるチャイムが鳴る時刻を指し示す。つーか描写長いだろ。
秒針が12という文字を指し示した瞬間、チャイムが全校に響き、それと同時にドアが開く。我がクラスの担任、大塚沙希女史は時間に実にルーズなのだ。
「はい、ホームルーム始める。号令」
「きりーっ」
がたがたという椅子の音。俺は立ち上がり軽くお辞儀して座る。
「さて、とりあえーず出欠を取る。青田ー」
「はーい」
次々と沙希さんは出欠を取っていく。わずか25人ほどのクラス全員の出欠はあっという間に終わってしまう。
ぱたんとクラス名簿を閉じ、沙希さんはクラスを見渡す。と、その時俺と目があった。
鼓動が跳ね上がった。
沙希さんはゆっくりと口を開く。
「あー、突然だが。転校生を紹介する――」
ガラリとドアが開かれた。
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