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Every Day!!

3-1

 さんさんと太陽の光はカーテンのない俺の部屋を容赦なく熱していく。
 暑い。めちゃくちゃ暑い。
 森の中にある寮の癖して、何故か日の光がもろ入ってくる俺の部屋。何て言うか、絶対に不公平な部屋割りだと今更気づく。
 これから夏本番へと向かうというのに、これでは先が思いやられる。否、俺の命がいつまで持つか分からない。
 とりあえず、俺は俺の従妹こと泉田恵里(いずみだ えり)の来襲を避けるべく、ちゃっちゃと布団からはい出て服を着替えだした。
 俺こと、岡野大地(おかの だいち)が大八橋学園に入学して早2ヶ月半。間もなくやってくる暑き7月を目前とし、俺の気分は全くと言っていいほど浮かなかった。
 本日、佐織が転校してくるのだ。
 この事実を知ったのはこの前行われた球技大会でのことだった。
 俺の爺さん――大八橋学園学園長でもある大八橋源治郎(おおやばせ げんじろう)――に4日目の夜、そのことを知らされたのだ。
 佐織。
 村瀬佐織。それが彼女の名だ。
 俺と佐織には深い事情がある。そして、大きな傷があるのだ。
 思い出すだけで吐き気がする。あのとき、俺は無力だった。

 タスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテ……

 頭痛がする。俺は頭を押さえながら、部屋にある簡単な台所で水道水をコップに注ぎ、一気に飲み干した。
 少し落ち着き、俺はホッと息を吐く。
 とりあえず、俺がしっかりしないといけない。
 この学園にきて、様々な人と出会った。とても楽しい日々を過ごし、そしてその日々は思い出となって自分の中にある。
 その日々を、これからも続けていきたい。だから、自分の所為でそんな日々を壊したくなかった。
 冷水を思いっ切り頭から浴びる。うん、スッキリ。頬を何度か叩く。うん、イタイ。当たり前だ。
 と、その時、ドアの向こうからドタドタと誰かが走る音がした。
「ああ、またか……」
 襲来に備え、こうして早く起きていたが、こうして来られるとうんざりとする。が、その反面心のどこかでホッとする自分もいる。
「まぁ、毎朝こうだもんな。これがなきゃ朝とは言えなくなってるし」
 足音が近づいてきて、そして思いっ切り部屋のドアが開け放たれた。
 部屋に入ってくるやいなや布団に向かってルパンダイブを敢行。が、しかし、すでにそこには布団も人もいない。
「え、あ、きゃ〜!」
 ドンッ!
 案の定顔面から畳にダイブした。これは痛そうだ。
 俺は苦笑いを浮かべていつものように俺の部屋に飛び込んできた恵里に近づく。
「よぉ。恵里。おはよう」
「うぅぅぅうう、おにぃちゃぁん、どうして今日はそんなに早く起きてるのよぉ……」
 打ち付けた鼻を押さえながら、涙目で恵里は俺を上目遣いで見る。が、俺はそれを見事にスルーした。
「まぁ、毎朝お前の襲撃をくらってるとこっちの身が持たないからな。ハッハッハー」
「うぅ、ひどぉい!」
「大地君、おはよー! 朝ご飯食べに行こうよ!」
 と、ドアの外から声がした。俺が部屋から顔だけ出すとそこにはすでに制服に着替えた我が隣人、水島花梨(みずしま かりん)が立っていた。
「おお、花梨。おはようさん! オッケー。分かった」
 俺は部屋でまだ哀しき乙女を演じる恵里を放っておき部屋から出る。
「うし、行くか」
「うん」
「あーん、おにいちゃん、ひどいよー!」
 がちゃりと音がして、向かいのドアが開く。そこから出てきたのはすらっとした長身にかなりグラマラスな身体を持つ先輩殿、木村玲(きむら あきら)だった。
「あ、玲先輩。おはよーございます」
 と、花梨は元気よく挨拶。
「ああ、おはよう。花梨ちゃん」
 玲先輩はニッコリと花梨にほほえみかける。
「おはようございます。玲先輩」
 俺も花梨に続いて挨拶をする。
「あー、大地。おはよ」
 が、素っ気ない返事をされ玲先輩は花梨と食堂へさっさと向かう。うーむ、昨日の組み手の約束をすっぽかしたから怒ってるのかなぁ(当たり前でしょう)
 まぁ、細かいことを気にしていたら人間終わりだ。
「大にぃ、おはよー!」
 後ろから声をかけられ、俺は振り返った。そこには少し小柄で童顔な従弟であり恵里の双子の弟、泉田拓也(いずみだ たくや)がいた。
「拓也。おはよ」
「大にぃ、さっさと朝飯食いに行こうぜ」
「ああ、そうだな」
 ちなみに、現在進行形で恵里はスルーしている。相変わらず廊下の地面にへたり込んで哀しい乙女を演じていたりもする。
 俺と拓也は並んで食堂へ向かう。さりげなく拓也が恵里の首根っこ掴んで引きずっているのがグッドだ。
 食堂の入り口で、黒くて長い髪を見付けた。
「紗英さん! おはようございます!」
 俺の声に気づき、紗英さんは俺の方へ振り返る。可憐な大和撫子の先輩、黒沢紗英(くろさわ さえ)はニッコリと微笑んで「おはようございます」とお辞儀した。
 その後ろからもう一人、ヒョッコリと顔を出した。ミス委員長、珠野希美子(たまの きみこ)だ。
「大地せんぱーい、おはよーございまーす」
「おはよ、希美子ちゃん」
 食堂内にはいると、みそ汁の良い匂いが広がっていた。
「おっ、伯父さん。今日も美味そうだな」
「大地か。そうだろ。私のご飯は美味しいからね」
 そう言ってエプロン姿で厨房から顔を見せるのは泉田姉弟の父親である泉田和明(いずみだ かずあき)氏だ。
 俺はテーブルに着く。すると誰かが食堂に入ってきた。
「いよぉ! みんな、おはよー!」
「おはよーございまぁす!」
 と元気に挨拶したのは初等部の子たちだ。食堂に入ってきたのは大八橋学園の教師兼大八橋寮寮長の大塚沙希(おおつか さき)女史である。
 いつものメンバーが集い、朝食が始まる。
 ――さぁて、今日は気合い入れていかないとな。
 俺は目の前にある飯を、一気にかっ込んだ。
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