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Every Day!!

3-14

 じめしめとした暗い洞窟。これがまさか遊園地のアトラクションだとは誰も思わないだろう。
 小さな避難灯だけが、この暗い洞窟での唯一の明かり。きっと職員の人が助けに来てくれるだろうけど、いつ来てくれるかは分からない。
 でも、今はそんなことどうでもよかった。私はじっと佐織さんの話に耳を傾けていた。
「結構、幸せだったんだ。大地くんは私を尊重してくれたし、とりあえず優しかった。きっとね、あのくらいの歳の男の子ならさ、もっといろいろとやりたいことがあったと思う。でもね、彼は我慢していたのか、それともホントに何にも考えていなかったのかは分からないけど、私の歩調に合わせてくれた。だからかなぁ、付きあいはじめた頃より、ますます私は大地くんが好きになっていた」
 きっと私は分かっているんだ。だから、彼女の話を聞かないといけない、なんていう義務感が生まれている。
 大地くんが好き。
 いつからかなんて分からない。でも、彼に惹かれていく自分はハッキリと認識している。
 佐織さんは私の知らない大地くんを知っている。私は知りたい。大地くんの過去に何があったのか。佐織さんに向けるあの眼差しの真意を知りたい。
「まぁ、付き合いは順調だったわ。付かず離れず。だいたい月に二回か三回くらいデートして。放課後はいつも一緒に帰って。メールで毎朝毎晩おはよう、おやすみの挨拶して。って、何だかのろけているみたいね」
「いい、全然構わない」
「そう? 花梨ちゃん、聞いてて辛くないの?」
 佐織さんの眼差しが、私を貫く。彼女はすべて分かっている。私が彼を好きなことも、きっと彼が何を考えているのかも。
 本心でぶつかってきてくれる。私も、本心でぶつからなければ、彼女に失礼だ。
「辛い。けど、聞かなきゃいけないと思ってる」
「そっか」
 それだけ言って、佐織さんは天を仰いだ。自分の中で、彼女も覚悟を決めているのだろう。
 出会ってまだ少ししか経っていない私と佐織さん。そんな彼女が、自分の奥をさらけ出そうとしている。生半可な気持ちじゃ、きっとできない。
「じゃ、続けるわね」
「うん」
 暗がりの中、女二人。私はぐっとこぶしを握り締める。



「しかし何だね、このアトラクションは。本当に遊園地のアトラクションなのかね。こんな非常事態にたたされているというのに、職員の誰一人助けに来ないじゃないか」
 腕を組んで、仰々しく述べる和彦。ちなみに彼は今、隔絶された床の上に立っている。彼の立っている足場はおよそ一メートル四方の大きさしかない。
「まぁ、あれでしょ。和彦が思いっきり変なボタンを押したから、それも想定の範囲内なんじゃない?」
「確かに恵里ちゃんの言うことは一理あるわよね。もちろん、こうなることを推定して造っているんだろうし」
「だよねー。こういうバカのための仕掛けだと思うわよね」
「あー、思う思う」
 なんて、頷きあう二人。そんな二人の隣で、和彦を哀れの眼差しで見る拓也。
「拓也。お前なら助けてくれるよな。なんてったって、大地の従弟なんだから」
 さっきとはうって変わって、縋りつくような瞳で拓也を見る和彦。彼ら二人の眼差しの温度差は一目瞭然であった。
「……和彦先輩。俺、あれほど下手なものには触らないで下さいって言いましたよね?」
「うっ」
 拓也は感じていた。このアトラクション。非常に嫌なニオイがすると。さらに、こんなメンバーで行くことも彼の不安を煽った。
 故に、彼はみなに念を押した。何かあっても、決して触らずに、とりあえず脱出だけを考えよう、と。
 だいたい懐中電灯を渡される地点でおかしいのだ。普通、どう考えてもお化け屋敷で懐中電灯が必要なわけがない。道順はそんなのなくても分かるはずだし、第一、客を危険な目に遭わせるはずがない。
 しかし、あの園長から拓也は自分の祖父と同じニオイを感じていた。かつて、大地は言っていた。
『いいか、拓也。爺はヤバい。何がヤバいって、全てがヤバイ。きっと今までろくでもない人生を送ってきたんだ。いいか、爺から金は貰うな。将来、それをネタに一体何を要求されるか分からないからな。いいか、兄貴の言うことはよーく聞いておくんだぞ』
 そんなくらい大地がヤバいという祖父。そんな人と同じニオイのする人。例え勘であっても拓也はそんな内なる警告を無視することができなかった。
 そして、それは今まさに現実となっている。
 まず始めに、恵里が変なレバーを見つけ、思いっきり引いた。瞬間、足場が消えた。恵里はもちろん、和彦、百合子、そして拓也の四人もろとも穴に落ちた。
 落ちた先は本当にまっ暗な回廊で、とりあえず出口を目指して再び歩きだした。今度は百合子が何かを見つけて、押した。
 次の瞬間、後ろから轟音が響き、巨大な鉄球が転がってきた。四人みな顔をまっ青にして死ぬ気で逃げた。
 何とか鉄球をやりすごし、ホッと一息ついたその時、和彦が践んだ。周りの地面から数センチばかり盛りあがった個所を。気がついたら、彼の周りの足場はすべて消えていた。ちなみに、この時拓也は消えた足場の位置にいたので、非常に危なかった。恵里と百合子の助けがなかったら見事に穴に落ちていたであろう。
 今までの経緯を回想し、拓也は深いため息をつく。こんな時にこそ、大にぃがいたらなぁ、と言いたくなるのをぐっと堪える。
「とりあえず、脱出方法を考えましょう。……和彦先輩は放っておいて」
「おお、マイブラザー。それはいい考えだ。考えよう。考えよう」
「……しかし、何で私はこうなってるのかしら。ホントなら大地くんとデートしてるはずなのにぃ!」
「あー、もしもし、諸君。まずはボクを助けるのが先決ではないかと……」

 ヘボラパークニューアトラクション。彼らの迷走は続く。
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