Every Day!!
2-13
応援席で試合を見ていた和彦は、第2クォーターの布陣を見て、愕然とした。
まさか、あれだけ布陣を替えてくるとは。
根暗をセンターに置き、佐川と水島はそのまま。
あとは大地と磯田が入れ替わっている。
今まで守りに徹していた磯田を攻めに回したのだ。
確かに、競り勝っているのにここまでガラリと変えたら上手く機能せずに負けてしまうかもしれない。
その予想通り、第2クォーター開始早々、相手にゴールを連発させられていた。
あっという間に点差は開く。34対39と相手5点のリード。
攻めあえいでいるという表現がピッタリなこの展開。
ものすごく嫌な展開だった。
しかし、大地の顔を見ると、まだ諦めていない。いや、不敵な笑みを浮かべている。
「まさか、何か策でもあるのか?」
和彦は食い入るように試合を見る。
すると、大地から磯田にボールが回った。
磯田にマークが付く。
そのままパスをすればいいのに、磯田はそいつを無理矢理突破しようとした。
無理だ。
そう声に出そうとした瞬間、磯田は相手を振りきったのだ。
そして、そのままシュート。ボールはゴールに吸い込まれた。
反撃開始ののろしである。
磯田は元々目立ちたがり屋だ。
だからこそ、無茶なプレーをする。
しかし、それは裏を返せば大胆なプレーができ、相手を錯乱できる。
俺はそう考え、根暗のポジションに磯田をおいた。そうすることによって攻めやすくするのだ。
根暗はがたいがでかく、もう容赦なく相手とぶつかり合えるのでセンターに置き、リバウンドを任せる。
俺は磯田のポジションにはいるが、守備一徹ではなく、もちろん攻撃にも参加するようにする。
守備が薄くなるが、流れがこっちに傾けば速攻で攻められる布陣だ。
見事、その布陣は大当たりし、第3クォーターが終わる頃には、68対54と14点差をつけていた。
「よっしゃ。このまま行けば勝てるぜ!」
そう言いながら、何度もガッツポーズを繰り返す磯田。第2、第3クォーターでなんと20点もの点を決めた。てか最初からそのポジションにしておけば良かった、と思うほどの活躍ぶりだ。
「とりあえず、流れを相手に傾かないようにしなきゃね」
スポーツ飲料を一気に飲み干し、佐川さんは呟く。
「まぁ、頑張ろうよ」
花梨は笑顔を振りまきながらみんなに言う。
確かに、今のまま行けば勝てる。
だけど、油断は禁物だ。
現に、きっと花梨と佐川さんはだいぶ疲れているはず。
これに勝つと、また次がある。あまりこの試合で疲労をためることはできないのだ。
「うし。次でラストなんだし、頑張ろうぜ!」
第4クォーター。後半ラスト。ガッツで行くぜ!
ピーッ!
試合終了の笛が鳴る。
87対77。10点差で俺たちの勝利だ。
俺は整列する為に、小走りでコート中央に並ぶ。
「っ!」
右足首に鈍い痛みが走る。
どうやら、プレーしているときに痛めたようだ。
「あとで湿布貼らなきゃな……」
とりあえず、試合には勝った。次の試合もあるのだから、痛みだけは取っておかないと。
「うっし、勝った勝った。次はどことだろうね?」
嬉しそうにドリンクを飲む佐川さん。てかその飲む早さ、アントニオ猪木並みだ。すげぇ。
「じゃあ、次の相手どこか見に行こうよ」
そう言いながら、俺の腕を引っ張る花梨。うおい! そんなにしがみつくなくっつくな!
「あー、じゃあ私も!」
とか言いながら逆の腕にしがみつく佐川さん。ノーッ! お願い、そんなに胸を押しつけないで!
「じゃ、僕は先に行ってるね」
「ああ、俺も」
とか言いながら、去っていく根暗と磯田。
な、何て薄情な奴ら! とりあえず助けてくれよ!
とりあえず、なんとしてでも現状を打破せねば、融点に達してしまう!
「あ、あんなところにUFOが!」
「「え、どこっ!」」
まさか引っかかるとは思わなかったが、二人は同時に振り返る。
腕を抱きしめる力が弱まったので、俺はそれを振りきって走る。
「あ、大地君! 待ってぇ!」
「キャッ! 待ってよぉ!」
二人はすぐに追いかけてきた。
とりあえず、なんとしてでも中等部第1体育館へ向かわねば。
実は、そこで次の俺たちと当たるDブロックの決勝戦が行われていた。
痛みにこらえながら、俺は走る。まぁ、ちょっとくらいなら大丈夫だろうからだ。
中等部第1体育館に駆け込んだ俺は、根暗と磯田を探す。
すると、応援席の一角に二人が突っ立っていた。
「おい、お前ら。良くも俺を見捨てたな……」
二人が唖然とした表情でコートを見ており、全く俺の言葉に反応しないので最後の方は尻すぼみになってしまった。
俺も、コートの方を見た。
そして――唖然
高等部3年T組Bチーム対高等部2年C組。
残り1分の地点で117対35。あり得ないくらい相手を圧倒していた。
ひときわ目立つのが、玲先輩と久美先輩のコンビ。
てかあの二人、アイコンタクト無しでパス回してる……。
相手は、そんな二人を止めるすべなくただ立ちつくしている。
あ、ダンクシュート。
………ダンクシュートっ!?
大きく玲先輩がジャンプしたと思ったら、まさかダンクだったとは。
どれだけジャンプ力あるんだよ、あの人は。
1分の間にさらに点を重ね、試合終了の地点で125対35。90点差というあり得ない結果に。
「おいおい、こんなのと戦うのかよ……」
磯田は明らかに怖じ気づいている。
根暗も、開いた口がふさがらない。
そして俺は。
「足痛ぇ」
現実逃避していた。
玲先輩は、俺たちを見つけるとブイサインを見せ、そして大声で言う。
「楽しみだな! 次!」
実に、楽しそうな声だった。
その声に反し、俺たち3人は石像と化す。
「な、なぁ、次どうよ?」
「さ、さぁ? 何とかなるんじゃねぇ?」
「ま、まぁ、頑張ろうよ」
男3人、情けない限りだった。
さて、いよいよ準決勝。高等部3年T組Bチーム対高等部1年T組Aチーム。
俺の足の痛みはさらに増して、ズキズキと俺の集中力をそぐ。
「あー、くそっ」
とりあえず、このことは隠しておかないと。絶対に花梨とか根暗とかを心配させちまうからな。
軽くドリブル、そしてシュート。やはり足は痛む。
我慢できないほどではないが、それほど動くことはできそうにないな。
試合開始まで後5分。みんなアップを終え、ベンチの周囲に集まる。
「さぁ、みんな。相手は3年だけど、頑張っていこう!」
と、声を出す佐川さん。さすがだ。
「お、オレ、ぜ、絶対無理。へ、下手したらし、死んじゃう」
おい、磯田。お前、玲先輩と一体何があったんだ。
「何とか頑張るよ。うん」
と、言っているが顔がこわばっている根暗。まぁ、仕方あるまい。相手はあの最凶コンビだしな。
「だ、大地君。頑張ろうね」
花梨。そう言っている割には俺の後ろに隠れてるってどういうことかな?
「姐さーん、頑張ってぇぇ!」
観客席からそう絶叫する和彦。お前、俺らと一緒のクラスだよな?
「ま、頑張りますか」
やれることをやるだけ。
バスケットボール準決勝。今、試合開始だ。
ピーッ
ジャンプボールで早速相手にボールを奪われ、ボールは玲先輩に回る。
俺は玲先輩の前に飛び出す。
「ふ、大地よ。貴様が私にたてつくつもりか?」
なんか危ないですよ? 玲先輩。
俺はフェイントをかける玲先輩の動きに何とかついていく。ドリブルで突破できるのになかなか前に出ない玲先輩。
ふっと後ろに気配を感じ、目を配らせると久美先輩が磯田のマークを振り切っていた。
「あ、ヤバッ」
それを見て、玲先輩はニヤリと笑い、パスを出す。
呆気にとられていた俺は反応が少し遅れ、パスカットに失敗する。
そして、パスを受け取った久美先輩は……ってダンク!?
ゴールはぎしっと音を立て、ボールはゴールにたたきつけられた。
し、信じられねぇ。
呆然とする俺たちを尻目に、最凶コンビはハイタッチ。
とりあえず反撃しないと。
俺は佐川さんにパスを出し、佐川さんは一気にあがる。
しかし、すぐ目の前に玲先輩のガードが入る。
佐川さんはパスを後ろに回し、花梨が受け取る。花梨は少しあがった後、何とかマークから抜け出した磯田にパスを出す。
受け取った磯田はドリブルで突撃。そこに今度は久美先輩のガード。
それを無理矢理突破しようとする磯田。
刹那。
ボールは手元から消えた。
唖然とする磯田。俺もボールを探す。
パサ……
後ろを振り返ると、ゴールにボールが吸い込まれていた。
それを放った玲先輩は、ニンマリと笑う。
もう、人技ではなかった。
前半――第1クォーターと第2クォーター――が終わった時点ですでに56対29。27点差。恐ろしいくらいに一方的な試合展開だ。
「もう、オレ、駄目……」
そう言ってタオルを涙で濡らす磯田。おいおい、いつからそんなキャラに転向したんだ?
とりあえず、俺は痛む足を冷やしていた。真っ赤に腫れ上がり、熱もある。かなりやばい。
後半分も残っているのに、これじゃあまずい。かなりまずい。
みんなに背を向けて、とりあえず必死に腫れが少しでもひくように願う。
そうやってコソコソとしているのが仇となったか、花梨が俺の隣に来た。
「大地君、どーしたの?」
俺はサッと氷を包んでいたタオルを隠す。
無論、花梨がそれに気づかないわけもない。
「今、何か隠したでしょ?」
「え、いや、何?」
明らかに不審な俺。
「出して」
俺はオズオズと氷を包んだタオルを差し出す。
花梨はそれを受け取り、俺の足を見る。
「こんなに腫れてたのに黙ってプレーしてたの?」
「い、いやぁ、まぁ」
どもる俺に花梨はズイッと顔を近づける。
「どうなのっ?」
「はい、スイマセン」
それからはあっという間。観客席の和彦が呼ばれ、俺は交代。保健室へ直行となった。
「お、大地じゃないか。久しぶりだな」
「大垣先生。どーも」
おじさん保健医、大垣悟郎久々の登場。
「どれ、足を見せてみろ。って、オイ。めちゃくちゃ腫れてるじゃねーか。無理しすぎだバカ」
ぺしぺしと腫れている部位をたたく大垣先生。すんません、痛いです。
「まぁ、とりあえずあんまり動かない方が良いな。どれ、そこのベッドでサボっておけ。帰りは大塚先生でも送ってもらえばいい」
「はい。分かりました」
と、いうことで、残りの試合すべて欠場決定。さらば、俺の球技大会。
「そんなに悲観すんなって。別に来年も再来年もあるじゃねぇか。カッカッカ」
笑い方がかなり下品な大垣先生を見事に無視して、俺はどかっとベッドに寝ころぶ。
とりあえず、今日は全部終わるまで寝ておこう。うん。
俺の意識は、ゆっくりと落ちていった。
ふっと、意識が明るくなる。
体を起こし、時計を見るとすでに時刻は5時を回っていた。
「あー、終わったなぁ」
無情にも、俺の球技大会はここで終わった。
校庭では後かたづけに勤しむ生徒たちがちらほら見える。
とりあえず、5日間のもの行程で行われた球技大会は幕を下ろしたのである。
保健室を見渡すと、俺以外の人間は誰もいなかった。
夕日が窓から差し込み、部屋を真っ赤に染める。
これから、のことを考えるとどうも頭が痛くなる。
もうすぐ、佐織が転校してくる。きっと俺は落ち着かなくなる。もしかしたら荒れるかもしれない。
だからこそ、俺はどうにかしなければいけない。この問題は避けて通れない。
頭に浮かぶのは、花梨やここで仲良くなった人たちの姿。
今、このときを壊したくない。
ベッドから立ち上がる。足にズキリと鋭い痛みが走る。
でも、未来は誰にも分からない。
今の時が続くことなんて、あり得ない。
<第2部完>
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