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Every Day!!

2-2

 春から夏に季節が変わる時期は、それは本当に暖かく心地の良い時期である。
 窓際の後ろから2番目という、最高に心地よい席を確保しているこの俺にとって、この暖かさは本当に気持ちよかった。
 そして、こんなに暖かいのだから、睡魔がもちろん襲ってくる。
 そりゃもう、ものすごい勢いで。
 ちなみに、後ろの席の河原はさっきからずっと寝ている。
 そりゃもう、ものすごい勢いで。
 現在、4時間目の数学の授業。
 先生は沙希さん。
 実は、俺と河原は前々回の授業で爆睡してしまった。
 その頃は、まだ沙希さんの授業でも発揮される恐ろしさを知らなかったがために、そんな暴挙に出てしまったのだ。
 まず、授業は最後まで続けられた。
 そして、その日の放課後、見事呼び出しをくらい、地獄の補修が始まる。
 しかも、沙希さんは竹刀持参。
 間違えるたびに一回殴打。
 絶対、この人はサドだと思ったのだが、同時に和彦がマゾだと言うことも分かった。
 だって、殴られるたびに嬉しそうな叫びをあげるんだぜ。これは絶対に玲先輩と久美先輩の所為であろう。
 なので、沙希さんの授業では寝てはいけない。寝たら最後、今度はむち打ちの刑だ。ああ、恐ろしい。
 前回の授業では何とか耐えた。
 和彦に関しては放課後、この教室から変な叫びが聞こえていたのでどうやら寝てしまっていたらしい。
 そして、今回。
 もう、俺は眠る寸前。
 やばい、ものすごくヤバイ。
 後ろからは安らかに眠る和彦の寝息が聞こえる。
 そんな寝息が、さらに眠気を誘う。
 い、いかん。
 さすがにむち打ちは勘弁だ。や、やめてくれぇ!
 沙希さんはこっちを向くたびに、俺を見てニヤニヤする。
 これは絶対『寝てもいいよ。どうなっても知らないけど』って意味であろう。
 く、くぅぅ。
 それで寝てしまったら沙希さんの思うつぼだ。
 しかし、睡魔は容赦なく俺に襲ってくる。
 ど、どうする、俺。どうするんだ!
 むち打ちは勘弁。だけど睡魔は襲ってくる。
 その時、今やお天道様になってしまっている父さんの言葉を思い出す。
『いいか、大地。人間の3大欲は睡眠欲、食欲、性欲なんだ。その欲望にはあまり逆らわない方がいい』
 なら、いいか。父さん。寝ても。
『だが、人間、その欲望を我慢しなくちゃいけないときがある』
 そ、そうだよな! 父さん!
『我慢できなくなったときは、他のことで紛らわすんだ。思いっ切り頭をどこかに打ち付けろ、それで万事オッケー』
 そ、そうか、父さん! よ、よし。俺はやるぜ(もはやかなり錯乱中)
『ちなみに、俺は打ち付けたら痛いのでやらないがな、ハッハッハー』
 うぉりゃぁぁぁああ!
 ゴンッ!
「ぐおっ!」
 思いっ切り、俺は机に頭を打ち付けた。最高にいい音がした。
 そして、めちゃくちゃ痛かった。だけど、睡魔吹き飛んだ。父さんの話は正しかった。
「ちょ、岡野君。何やってんだ!?」
「え、いや。睡魔を追い払う為に親父の言いつけを守りまして」
「つーか血、出てるぞ」
「へ?」
 おそるおそるおでこに手をやる。
 なま暖かい液体が手についた。真っ赤だった。血だった。吐き気がした。
「げー!!」
「……とりあえず保健室行ってこい」
「は、はい」
 クラスのみんなに笑われながら、俺は一人保健室へ向かったのであった。


「つーか大地。お前ってやつは本当に面白いことするよなぁ」
「うっせぇ。寝てたお前よりかはマシだ。今日、補習だろ」
「でも、おでこから血出したときはホントびっくりしたよぉ」
 俺と和彦は食堂に昼食を食べに来ていた。
 花梨も今日は弁当じゃないらしいので、一緒にいる。
 さーて、今日は何にするかな。
 俺は券売機の前で唸る。一体何にしよう。
 どっちにしろ、のんびり選んでいる暇はない。後ろがだいぶ詰まっているからな。
 俺が選んでいると、後ろから手が伸びてきて、うどんを押した。
「あーーーーー!」
 後ろを振り向くと、ニッコリと笑う紗英さんがいた。
「さ、紗英さん……」
「へへへ」
 

 現在、食いたくもなかったうどんを俺は渋々食っていた。
 目の前には、罪悪感もなんとも感じていない紗英さんがニコニコと座っている。
 ちなみに、その隣には花梨。俺の隣には和彦がいた。
「大地君、どう? 美味しいですか?」
「……ええ、そりゃもう」
 棒読みで答える。実際、あんまり美味くない。だって、食う気がなかった物だしなぁ。
「紗英さん、何で勝手に押したんですか?」
「え、今日はうどんな気分だったからですよ」
 もはや意味不明。紗英さん、なんだか不思議少女化してますよ?
 隣では、和彦が飢えたハイエナのような状態になっていた。そりゃ、紗英さんは美人だしなぁ。
 花梨は、そんな様子を見て少し怯えている。これを見て怯えない女子はいない。
「お、おい。大地。こんな美人の人、何処で捕まえたんだ」
 小声で俺に尋ねてくる。
「ああ、俺と同じ寮の人。2年生の黒沢紗英さん」
「な、なにぃ。お、同じ寮!? ゆ、許せん……」
 首元に殺気を感じるが、とりあえず今は無視しておこう。
 こんなところではさすがにこいつでも暴れたりはしないしな。
「ねぇ、二人で何話してるの?」
 花梨が首をかしげる。
「ん、まぁ。別に」
 俺はとりあえずはぐらかす。あんまり言わない方がいいよな。うん。
「そうそう、別に何にも……「あなたには聞いてないですよ」
 ズキューン!
 紗英さんは笑顔で和彦にそう言った。
 一瞬、みんな狐につつまれたような顔をして、後、花梨が大笑いしだした。
 和彦はというと、マジで悲しそうな顔。うわぁ、ホント哀れ。
「げ、元気出せよ。和彦」
「……なぁ、俺って駄目?」
 さらに、和彦が可哀想に思えたのは言うまでもない。


 今日最後の授業、それはホームルームだった。
 ちなみに、内容は来週行われる球技大会の種目決めらしい。
 この大八橋学園の最初の目玉イベントだ。
 中学部・高等部の2部合同イベントで、総勢約1800人もの生徒が参加する超ビッグイベント。
 まぁ、体育祭や学園祭はそれより大きな規模で執り行われるくらいなんだけどね。
 クラス対抗はもちろん、学年別でのランキングなども発表され、景品まで出るというのだ。
 しかも、教師までも参加するので、高等部全体が異様な盛り上がりを見せるイベントでもあるのだ。
 競技はソフトボール・サッカー・バレーボール・バスケットボールの4種目。
 各クラスそのうちの3種目以上を選んで出場する。
 ただし、1人の生徒は2種目までしか出れないという規約がある。 
 うちのクラスは人数が少ないので、ソフトボール・バレーボール・バスケットボールの3種目にエントリーすることが決まった。
 今、教壇の前に立ち、この話し合いを進めているのが我がクラスの熱血学級委員、磯田大麻少年である。
 大麻という名の通り、かなり性格がラリっているのだが、しっかりとしているので安心してみていられる。
 つーかそんな名前にした親の顔が見たい。マジで。
「えー、では、これから出場種目を決める。とりあえず、ソフトボールは1チーム、バレー、バスケットは2チーム作るからな」
 つまり、それだけのチームを作るには31人必要なので、6人は2種目でないと駄目なのか。大変だな。
「それと、岡野と河原は2種目出てくれるそうなので、後4人2種目出てくれ」
「「って、オイ!」」
「ん? どうした。そこの2人」
「いや、2種目出るなんて言ってねぇよ」
「うむ、確かに大地は言ったかもしれんだろうが俺は言ってない」
 和彦がどさくさに紛れて自分だけ否定していたがいいとしよう。
 しかし、本当に磯田め。めちゃくちゃ言いやがる。何勝手な事言ってるんだ。2種目出るなんて、めちゃくちゃ疲れるじゃねぇか。
「ふ、そんな細かいことなど気にするな。情けないぞ」
「いや、そんな問題じゃないし」
「まぁ、出なよ。いいじゃない。青春の1ページになるしね」
 なんか担任の肯定発言が出たのですが。
 そんなこんなで俺と和彦はソフトボールとバスケットに出ることになった。
 ちなみに、花梨もバスケット。須野はソフトボールにバレーだった。
「まぁ、クラスの代表として頑張ってくれたまえ」
「うっさいわ、ボケ!」


 今週1週間は、球技大会ウィークと呼ばれる週だ。
 1週間、午後の授業はなく、球技大会の練習に割かれる。
 ソフトボールに、バスケット(ちなみにAチーム。和彦はBチーム)に出る俺は、練習にてんてこまいだった。
 何故かソフトは3番キャッチャーという微妙なるポジションに指定された。
 4番でエースは間違いなく須野。ちなみに、監督も兼任。
 和彦は、1番センターで丸く収まった。
 ちなみに、和彦はピッチャーがいいと駄々をこね、須野の球1球で黙らされた。彼の顔にはその時の青アザがでかでかとある。
 バスケットの方は俺はパワーフォワードというなんだかよく分からないポジションに選ばれた。
 花梨とも同じチームで、何故か磯田もいたりする。
 花梨はシューティングガードで磯田はセンターである。
 まぁ、ポジションなんて決めても意味がないように思えるのは気のせいか?
 つーかバスケットに全然詳しくない俺は自分のポジションが何なのかすら分からない。 
「いいかい、岡野。パワーフォワードっていうのはね、比較的バスケットに近い位置でのプレーを担当し、ドリブルの巧さやスピードより、リバウンドなど、バスケット下でのボールの争奪戦に勝てるような、ジャンプ力や屈強な肉体が要求されるポジションなんだよ。君は身長が175くらいあるから丁度いいんだよね。しかも、水泳をやっているから肉体は鍛え上げられている。うむ、いいじゃないかいいじゃないか」
 とか長々と磯田に教えてもらったけど、それでもよくわからん。
 しかも、何故か磯田が監督を兼任するそうだ。なら何でセンターなんだ? ポイントガードの方が良くないか?
 と、聞いてみたら、彼はこう答えたのだ。
「センターの方が格好いいって」
 ……もうわけがわからん。
 とりあえず、コンビネーションが大切なバスケットの方に練習を割くか。ソフトの方はサインとか守備の確認だけでいいしな。
 高等部には体育館が2つあり、 グラウンドは4面もある。
 クラスの割り当てが決められていないので、場所の取り合いは深刻だ。
 ちなみに、俺たちは磯田が一体どんな手を使ったか知らないが、大学部の野外コートを借りて練習することになった。
 チームのメンバーを紹介すると、俺と磯田、花梨に佐川さん。そして根暗君。
「いいかね、君たち。とりあえず、パスは俺と岡野に回せ。もうそれだけでいい。あとは走り回れ」
 磯田の話は軽く流し、俺はストレッチを行う。
 花梨がパタパタと俺の方に駆け寄ってくる。
「大地君。なんだかワクワクするね。練習、頑張ろうね」
「ああ、そうだな」
 かなり楽しそうな顔をしているな。俺は思わず笑ってしまう。
 さて、とりあえず練習するか。
 ポイントガードの佐川さんは実はバスケット部。
 中学の頃は少しばかり名の知れた選手だったらしい。
 かなり機敏な動きをして、パスも巧みだ。それに、スリーポイントシュートが異様に上手い。
 根暗は、名の通りかなり根暗なのだが、それでもかなりすばしっこく、それでいてシュートが上手かった。
 花梨の場合は、適当にポジションが割り当てられた上に、あまり上手くない。まぁ、そえは佐川さんがカバーしてくれるからいいか。
 問題は磯田だ。あいつは実は170しか身長がない。
 ハッキリ言おう、ゴール下ではきっと不利だろう。まぁ、俺と根暗(実は180もあったりする)がカバーできることだし。
 俺はバスケットボールを手に持ち、スリーポイントラインからシュートする。
 大きく弧を描いたボールは、バックボードにあたり、そしてゴールに入った。
「さて、適度に頑張りますか」
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