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Every Day!!

1-6

 ハッと目が覚める。
 どうやら俺は寝てしまっていたようだ。
 んー、結構気分爽快。疲労がとれたな。
 時計に目をやると、すでに5時半を回っている。
「良い時間帯に起きたな」
 6時からは夕食&歓迎会?らしきものが催される。
 沙希さんのことだから1分1秒たりとも遅れることはできないであろう。
 ベッドからヒョイと立ち上がり、顔を洗いに洗面台に向かう。と言っても、それほど広くない部屋だ。向かうって表現はおかしいな。
 蛇口をひねり、勢いよく水を出す。
 それを両手ですくい、顔を洗う。
 冷たい水が心地よい。うん。眠気もバッチリ覚めた。
 俺は一足早く食堂に向かうことにした。


「あ、岡野君」
「どーも」
 食堂にはいるとすでに沙希さんがいた。厨房の奥からは良い匂いがする。
「良い匂いッすね」
「ああ。ほら、恵里ちゃんのお父さんが頑張ってるからね。今日は特製メニューだってさ」
 厨房をちらっと覗くと、伯父さんが必死扱いて動いている。頑張れ、伯父さん。
「で、沙希さん。この寮には何人いるんですか?」
「そういや言ってなかったっけ?」
「はい。まだあんまり聞いてないですね」
 沙希さんは手元にあったクリアファイルからなにやら書類を取り出すと、それを確認する。
「えっとね、この寮には男子3名。女子7名。計10名入っているわ。それと寮長の私に泉田さん」
 おお、俺の他に男が2人も!
 俺は少しばかりうれしさを感じる。やっぱし、いくら女の子に囲まれていたって同姓の友達が恋しいというわけだ(ちなみに俺にその気はない)
「そのうち初等部の子が2名。中等部が4名。高等部が4名。ああ、これにはすでに大地君と花梨ちゃんも入ってるからね」
 ってことは、俺の他に高等部は花梨と見知らぬ2名ってことか。
「あのー、男子の2人は何年生と何年生ですか?」
「えっとね、初等部の2年生のこと中等部の3年生の子よ」
 ええ!
 同じ高等部の男子はいないんですか!
 俺は少しばかりショックを受けた。
 母上よ、何もこんな寮に放り込まなくても……。
「あ、中等部の子は恵里ちゃんの弟だからね」
「そーいえば恵里には双子の弟がいたような……」
「ひっでーな、大にぃ」
「!!」
 俺はびっくりして後ろを振り向く。
 そこには、俺よりだいぶ小柄の少年が立っていた。
「拓也じゃないか! お前もここに住んでいるのか!?」
 泉田拓也。恵里の双子の弟だ。
 体はかなり小柄で童顔。明らかに女の子のような風貌。しかしながら、その口調はまさしく男の子。つーかかなりぶっきらぼう。
 お陰で、小さい頃はよくいじめられていた。まぁ、いつもそんな連中を返り討ちにしていたけどな。
 だけど、友達は全然いなくていつも一人だった。
 俺はそんな拓也を哀れみ、そしてその顔があんまりにも可愛らしかったので、よく遊んでやっていたのだ。
 そしたら、拓也は異常に俺になついてくれた。
「って大にぃ! 人の髪をグシャグシャにしないでくれ!」
「あ、ああ。すまん。つい、な。いやぁ、それにしても変わらないなぁ! 拓也」
「あったり前だろ! 前会ったのが先月じゃないか!」
「あははは、そうだったか」
 拓也も、心なしか嬉しそうな表情を見せている。
「あ、大地君! って、この子だあれ?」
 ヒョッコリと隣から花梨が顔を出した。なんだか可愛らしい服装を着ている。
 つーかなんていうか、目のやりどころに困るな。見た瞬間悩殺されそうだ(何言ってんだか)
「ああ、こいつは俺の従弟の泉田拓也っつーんだ。ほら拓也。この子は水島花梨っていうんだ。俺と同じ新高校1年生」
「あ、どうも。泉田拓也です」
 花梨はにっこり笑うと小さくお辞儀した。
「あ、岡野君に花梨ちゃん。ほら、もうすぐ6時だし。席について」
「「はーい」」

 俺と花梨は食堂の一番中央席に座った。どうやら、今日の主役の俺たちは一番目立つ席に座らなくてはならないらしい。
「なんだか緊張するね」
 花梨の方を向くと、緊張とうれしさが混じった表情をしていた。
 まぁ、確かに、これから一緒に住む人たちと初顔会わせで緊張する反面、こうして歓迎してくれるのが嬉しいのだろう。
 実際、俺もそうだ。
 少しばかり手のひらが汗ばんでいるさ。これでも普通の人間だからな。
 すでに、食堂には他8名の生徒が座っている。
 小さい子は俺たちを見ながらキャッキャとはしゃいでいた。
 沙希さんが席を立ち上がる。みんなが一斉に沙希さんの方を向いた。
「ゴホンッ。今日は、新しくこの寮に入寮したお二人を紹介するよ!」
「オォー」
 なんか体育会系のノリだが、楽しそうなので気にしない。
 つーかみんな俺たちをかなり好奇心一杯の眼差しで見てるなぁ。ちと恥ずかしい。
 隣の花梨も、その視線に気づいているのか、ほんのりと頬に朱が混じっていた。
「明後日で高校1年生の、岡野大地君に水島花梨ちゃん! お二人とも、ほら、お辞儀!」
 沙希さんに言われるがまま、俺と花梨は立ち上がって小さくお辞儀して座る。すると、8人と人数は少ないが、盛大な拍手が俺たちに送られた。
「ではでは、自己紹介をして貰いましょう! まずは岡野君!」
「え、俺っすか!?」
 とりあえずもう一度立ち上がる。
 ふーむ、何を言おうか。
「えー、どうも、岡野大地です。まぁ、好きに呼んでもらって結構です。あ、それと中学はこの学園とは違う中学にいました。実家はここから結構遠いです。えー、あ、それと前が水泳部だったんでここでも水泳部にはいろっかなって考えています。はい、以上です!」
 わー、と拍手が起きる。
 その時だった。
 妙に鋭い視線を俺は感じた。
 残念ながら、誰の視線かは分からなかった。まぁ、気のせいかな。
 緊張して面持ちで、花梨も自己紹介を終え、そして――
 歓迎会が始まった。


「では、皆さん――」
「カンパーイ!」
『カンパーイ!!』
 沙希さんの号令で、みんなはグイッとコップの飲み物を飲み干す。
「さぁ、みんな。今日は腕を奮ったから、ジャンジャン食べておくれ」
 伯父さんがそう言う前に、すでに大半は食べ物に飛びついていた。
「ほら、岡野君もボーっとしないで食べなさい」
 後ろを振り返ると、すでに酒が入っているからか、ほんのりと頬が赤い沙希さんがいた。
「では、頂いてきます」
 なんだかおかしい日本語だったな、と苦笑いを浮かべながら、俺も食事に手を出す。
 やっぱし、こういうのは良い。
 みんなで集まり、そして騒ぐ。
 久々の感覚だった。
 懐かしいこの感じに少しばかり感動しつつ、俺も激しい食べ物の取り合いの中へ突入した。


 何とか肉類などを確保することができ、俺は立ったまま食事を行っていた。
 理由としては、なんだか周りの雰囲気がパーティーみたいになってきたからだ。
 座って食事をしている人は少ない。みんな歩き回りながら話したり、食べたりしている。
 ああ、パーティーってこんなんなんだな、と感心したりしている。
「あ、あの。岡野先輩」
「はい?」
 すぐ後ろから呼び止められて振り向くと、眼鏡をかけた小柄な女の子が立っていた。
 ハッキリ言おう。見知らぬ顔だ。
 ていうか、明らかに委員長か図書委員だろって雰囲気を醸し出している少女だ。
 髪は3つ編みで2本。なかなか童顔で可愛らしいその顔は、初対面の人と話す為か少しばかり赤くなっていた。
「わ、私、中学2年生の珠野希美子っていいます。よろしくお願いします」
「あ、ああ。ヨロシクね」
 珠野さんは、深くお辞儀すると、パタパタと自分の席に着き、食事をしだした。
 ふうむ。また新たなキャラ登場だな。
 しかも、今までにないキャラだぜ。いい線いってるぜ。
 それにしても、なんだかこの寮には可愛らしい子しかいない気がする。
 最低ラインが、俗世間の中の上並みだ。ありえねぇ……。
 俺がなんだか焦点の定まらない目で辺りを見回していたせいだろうか、花梨がトテトテと俺に近づいてきた。
「大地君どうしたの?」
「ん?いやなんでも……」
 と、俺が言いかけた瞬間だった。
「おにーちゃーん!!」
「ぐぇ!」
 何とも言えない声を上げ、俺はひっくり返った。
 片手に持っていた皿が宙を舞うが、それは花梨がうまくキャッチした。
 しかも、米一粒もこぼさずに。
「ナイスキャッチ! 花梨」
 しかし、俺の状態も非常にヤバイ。
 恵里が俺の上に馬乗り状態になっている。
 周りの視線がズキリと刺さる。
「あれ、岡野君。こんなところで早速?」
 沙希さん、場の空気を読んでください。ついでに頼むから何とかしてください。
 意外にも、助け船を出してくれたのは拓也だった。
「おい、恵里! お前、何大にぃに飛び乗ってんだよ。ほら、すぐにどけよ」
「な、拓也!私のことはお姉ちゃんと呼びなさいっていつも言ってるでしょう!」
「は、しらんな。たかが数時間、早く生まれたからって調子に乗るんじゃないぞ。とりあえずだ、今すぐ大にぃから下りろ」
 拓也はにやりと笑って俺と目を合わせる。とりあえず、俺も苦笑いを返しておく。
「キーッ! もう、怒ったからね! こら、拓也! まちやがれ!」
「ぐぇ!」
 俺を足蹴に飛び上がった恵里はそのまま拓也に飛びかかろうとした。
 しかし、拓也はかなり身軽だ。ヒョイとそのまま恵里を避けてしまう。
「ほら、恵里。何やってるんだ?」
 さらに恵里を挑発。そして、俺に目を配らせてウインク。きも!
 しかし、俺にはその意味が分かっていた。
 ――とりあえず恵里はどっかに連れて行く――
 まぁ拓也のことだから部屋にでも押し込めてくるだろう。
 拓也の挑発にまんまと乗ってしまった恵里は、そのまま拓也を追いかけて食堂を出て行ってしまった。
「ふぅ、これで一安心」
 さらに宴は続くのであった――


 まさか、こんなことになるなんて――
 俺は食堂内を見渡す。そこら中で人が倒れている。
 まぁ、宴の後だから原因が安易に想像できるが、何故初等部の子供まで……。
 原因は沙希さんだった。
『今日は特別な日だから何でもしていいわよ!』
 きっと、この言葉が悪かったんだろうなぁ。
 みんなは目の色を変えて、厨房の冷蔵庫に突っ込んだ。
 そして、中から沙希さん秘蔵のものと思われる酒を捕りだして、みんなで飲み始めたのだ。
 もちろん、初等部の子だって飲まされていた。
 それがこの様だ。
 最後の方となると、誰かが沙希さんの部屋に進入して盗ってきたものと思われるかなりレアな酒も混ざっていたような気がする。
 そんなこんなで、あっと今にみんなは酔いつぶれてしまった。
 俺はというと、チビチビと端っこで飲んでいたからだろうか、あんまり酔わずにすんだ。
 まぁ、沙希さんに見つからなかったのだが幸いしたんだろうな。
「ぅ、ん……」
 すぐ隣の椅子に、花梨がもたれ掛かるように寝ている。少しばかり服が乱れているが、そこは無視だ。
 掛け布団を数枚持ってきて、寝ている子にかけてやる。ささやかな気配りってやつさ。
 床に大の字で恵里と拓也が寝ている。
 やっぱし、仲が良いんだな、と改めて思う。
 この姉弟はきっと、これからもずっと一緒に頑張っていく気がした。
 少しばかり……羨ましかった。
 とりあえず、寝ている全員に布団を掛け終わる。
「ふぅ」
 何となくため息。まぁ、誰にも聞かれていないだろうけど。
「なんだ、気が利くじゃないか、新入り」
「!!」
 背後から声をかけられ、俺は振り返る。
 食堂の入り口に、その声の主はいた。
 少しばかりきつい目。かなりの威圧感のある眼差しだ。
 そして、綺麗に整った顔。紛れもない美人である。
 少し薄い黒色の髪は俗に呼ばれるポニーテールという髪型になっている。
 そして、特に目を引くのは顔だけではない。
 服の上からでも十分分かる、そのグラマスな体だった。
 明らかにモデル体型。身長は170あるかないか。女子としてはかなりの長身だろう。
 そんな綺麗な女の子が、さっきから俺を見ている。
 いや、睨んでいると言うべきか。
「なんだ? 何を構えてるのか?」
 俺はハッと自分を見る。明らかに警戒心むき出しの状態だった。
「あ、自己紹介がまだだったな。私はこの学園の新3年の木村玲だ。この寮に住んでいる。ヨロシク」
 彼女はスッと手を出した。
 俺も一応手を出して、握手する。
 すると、俺は一気に彼女に引っ張られた。そして背負い投げの体勢。
 ヤバイと思ったときには俺の体は放り投げられていた。
 しかし、俺はそんなに柔な男じゃない。
 体をひねり、うまく足から着地する。我ながら格好いいぜ。
「って、何するんですか!」
 俺は彼女の方を振り向いた。彼女は少しばかり驚いた顔をした後――
 ニヤリと笑った。
「気に入ったぞ」
「へ?」
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