大地のご加護がありますように
4-2
「大地くーん!」
下駄箱で靴を履き替えていると、隣から不意に声をかけられた。
目だけでその声の主を見ると、そこには少し息を乱した爛が立っていた。
「おはよう。大地君」
「ああ、おはよう」
相変わらず、俺は素っ気なく接してしまうが、これでも彼女とうち解けた方だと思う。
彼女は嬉しそうにニンマリと笑い、俺の隣で靴を履き替える。屈んだ際にポニーテールの髪が揺れ、シャンプーのほのかな香りがした。思わず、頬が熱くなるのを感じる。
俺は荷物を右肩にかけ、さっさと教室へ向かおうとした。
「あ、大地君。待ってよぉ」
そう言いながら、彼女はぱたぱたと小走りで俺の後を追う。そんな様子に、今度は頬がゆるむ。ぺちぺちと頬を叩いて、元に戻す。どうも爛の傍にいると、俺の頬が勝手に赤くなったりゆるんだりするようだ。困ったもんだ。
隣に並び、一緒に教室へと向かう。その間、俺と爛は軽く話をする。
教室でも、席が連続なので多く話すことができるが、爛はとりあえず常に俺と話がしたいようだ。俺はもちろん聞き役だ。
そして今日も、爛はいつものように俺に話しかける。
「ねぇ、大地君。大地君って誰かと遊びに出たりすることってある?」
「いや、ない。中学のときは勉強ばっかだったから」
「そっかー」
なにやらニヤニヤと爛は笑っている。悪戯っ子のような笑みに、俺は不吉な予感を感じ取った。
「じゃあ、さ。今度一緒に遊びに行かない?」
「へ?」
一瞬、何を言われたか分からなかったが、理解するやいなや俺の顔の温度が一気に上がるのが分かった。
一緒に遊びに行く。これってもしかして、デートの誘いではないのか?
そのくらい、常に勉強漬けだった俺でも分かる。彼女はニコニコと俺を見ている。
「え、ちょ、それって」
念のために、俺は二人っきりかどうか聞いてみることにした。もしかして、北條や大林を誘って遊ぶ可能性だってあるからだ。
「うん、二人でだよ」
さらに、俺の顔の温度が上がる。もはや沸騰寸前だ。
「で、いいの? どうなの?」
首をかしげ、俺を上目遣いで見つめる爛。そう言えば、こうして上目遣いで見つめられたことが前にもあったと思う。あの時の威力もすごかったが、今の上目遣いの威力は軽く前回を凌駕していた。戦艦を撃沈できるほどの威力を秘めているかもしれない。とりあえずそれくらいすごいってわけ。
俺はコクコクとものすごい勢いで首を縦に振った。所詮、俺も男だってことだ。可愛い女の子に誘われれば断れないのは哀しい性である。
彼女は実に嬉しそうに目を細め、「じゃあ、来週の日曜日でいいよね。あ、待ち合わせは駅前の噴水で十時ね」とさっさと約束を決めてしまった。心なしか、彼女の頬も赤く染まっているのに、俺は気づいた。
そうして、俺と爛は来週の日曜日に、デートをすることになったのだった。
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