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大地のご加護がありますように

4-1

 建前では、放っておいてくれ。
 本音では、ちょっと嬉しい。
 その後、学校で俺は四六時中爛につきまとわれる――この表現が正しいかどうかは分からないが、俺は爛の発言を容認した覚えもないのでこう言うことにする――ことになった。
 学年一の美少女が、こんなパッとしない眼鏡野郎といつもいたら、周りの反応は明らかだろう。
 その日から、俺は学年、否、学校中の野郎どもから殺意の混ざった視線で見られることになった。いや、女子生徒からのきつい視線もある。どうやら、爛は男女ともどもから絶大な支持があるらしい。もしかして、俺の命が狙われるときが来るのかもしれない。冗談抜きで。今すぐにでも。
 そんな弊害が起きていることにも気づかず、俺に近づく爛は実に可愛らしかった。なんていうか、今までのことがバカらしくなるくらい彼女の笑顔は俺を和ませた。
 それでも、俺は彼女の相手をあまりしない。守りたいのだったら勝手に守ればいい、とつっぱねる。
 今まで、俺がしてきた行為、そしてプライド。その二つが俺が彼女に余計に近づくのを躊躇わせた。
 どんなにひどく扱われても、相手にされなくても、彼女は俺の近くに来る。
 もしかして、爛は俺を彼女の姉――生徒会長――から守る。つまり身内のことだから俺を守るといった責任感から俺に近づいたのではないか。
 そう思ってしまう自分が哀しくて、それでいて惨めだった。誰も信用できないことにひどく落胆する。
 だから、俺は彼女を突き放すような言い方しかできない。こんな男、守ったって意味はない、と。
 何度言っても、彼女は笑顔でさらりと流してしまう。そして、またニコニコと俺の近くにいる。
 朝、学校に来てみれば彼女はすでに自分の席にいて、俺を待っていた。
 そして、俺が席に着くと、待ってました。と言わんばかりに話を始める。
 自分が体験した話――例えば近くのCDショップに行って、アルバムを買ったら店員の人が千円もまけてくれたこと(たぶん、これは爛が可愛いからである)とか、友達と帰ったら、その友達が犬にちょっかいを出して追いかけられたとか、服を買いに行ったらサイズがきつくなっていた(ここで特に胸が、とか彼女が言ったので俺は思わず赤面しちゃったりする)とか――などを熱心に話してくれた。
 最初の内は、全く関心も持たずに聞き流した。そうすれば、きっと彼女もこんな無駄なこと――思えば、守るとか言っておきながら単に話しているだけではないのだろうか?――を止めると思ったからだ。
 でも彼女は構わず根気よく話を続けた。気が付けば、一週間も彼女はあまり反応のない俺に話し続けていたのだった。
 そんな様子が、ひどく可笑しく見えてしまった。
 別に、突き放す必要なんて無いんじゃないのか?
 俺の中にあった、無意味な意地とかが静かに崩れていくのを感じる。
 変われるかもしれない。
 それは、本当に訳の分からないきっかけだけど、変われるかもしれない。
 目の前の女の子に、賭けて良いのかもしれない。
 俺が、俺であるために。
 俺が、ここにいるために。
 少しくらい、賭けたっていいかもしれない。
「で、私ね、思いっ切り額を机に打ちつけちゃって、すんごく痛かったの。額は真っ赤になるし、頭も少しくらくらして」
「……そらぁ、痛かっただろうなぁ。その後、どうなったんだ?」
「え?」
 急に、話に答えた俺を爛は驚いたような目で見る。そして、すぐに嬉しそうに目を細める。
 これは、俺が折れたわけではない。俺は、彼女に賭けても良いと思っただけなんだ。そう、自分に暗示をかけて俺は彼女と再び言葉を交わす。
「ほら、続き、話してくれよ」
 実に、本当に嬉しそうに彼女は微笑む。その微笑みは、今まで見たこともないくらい可愛くて、眩しかった。
「うん――」
 彼女は、話を続ける。
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