PREV | NEXT | INDEX

大地のご加護がありますように

3-2.5

 真っ暗な部屋に、男は入った。
「やぁ、調子はどうだい?」
 真っ暗な部屋から顔を出したのは、一人の少女だった。
 制服に身を包み、たくさんの本を運んでいることだった。
「あらぁ、いらっしゃぁーい。珍しいぃですねぇー。あなたから尋ねてくるなんてぇー」
 ひょっこりと、本の山から彼女は顔を出してニッコリと笑う。
 男は軽く会釈して、持っていた鞄を壁に立てかける。そしてキョロキョロと部屋の中をうかがった。
「まぁね。それにしても、いつ来てもここは不気味だね。昼間なのに真っ暗だし」
「これが趣味なんでぇすよぉー」
 にははと笑い、彼女はどっこいせと本を地面に置く。本棚はあるにはあるのだが、もう本のはいるスペースなどなさそうだ。
 彼女は仕方なしに、本棚の前に本を置いた。積み上げられた本の山は本棚の一段目と二段目の一部を隠す。
 くるりと彼女は振り向き、男の方を見た。
「で、何のごよーけんでぇ?」
「ああ、そうだな」
 彼はごそごそと足下に置いていた鞄から何かを取り出す。それはファイルに挟まれた数枚の書類だった。
 彼女はそれを受け取ると、ローソクに火をつけて読み始める。
「……へぇ、そうだったんでぇすかー。あの彼が?」
「お前、知ってるのか?」
「知ってるも何も、この前会いましたからねぇー。自己紹介も何もまともな会話すらしてないですけどぉ」
「そうか」
 男は腕を組んで壁にもたれ掛かる。
 独特な臭いが、鼻につく。きっとこれは何かの香料の臭いだろう。
「でだ、そいつに『力』の説明をしてやれ」
「え? 教えちゃうんでぇすか?」
「ああ。一応『力』を感じることはできた。が、説明でもしないと駄目だろう。それに、最初に感じた『力』はいささか強力すぎた。しかも、強力な癖して地味だった。だからもっとインパクトのあるのを見せつけて、説明してやってくれ。まぁ、そうだな。急ぐ必要はないしとりあえずチャンスがあればやってほしい」
 書類をパラパラとめくり、彼女はむむぅ、と唸る。
「で、あなたの真意は?」
 そう聞くと、男は苦笑いを浮かべた。
「どうしたのでぇすか?」
 不思議そうに彼女は首をかしげる。
「いや、会長殿も同じことを聞いたからさ。どうも、ここのお嬢さんは疑い深いね」
「乙女は身の安全が優先ですからねぇー。目的も何も分からないようなぁことは引き受けないんでぇすよ」
「なるほどな。まぁいいか。とりあえずそれの観察だ。そのために『力』を教えてやってほしい」
 ふふふと、彼女は笑う。
 暗い部屋の中でそんな笑い声を出されると、かなり不気味な光景である。
 書類をテーブルに置き、彼女は男を見た。
「いいでぇす。やりましょー。でも、時間かぁかりますよぉ。ワタシ、『力』の復習しなくちゃいけませぇんし。それに、彼は今のところ結構不安定みたいですしねぇ。下手な刺激は与えないほーがいいでしょうーね」
「ああ、別にいい。じゃあ、よろしく頼んだぞ」
 そう言うと、男は鞄を掴み部屋から出て行こうとする。
 が、ふと足を止め振り返る。
「会長の妹殿はどーしてる?」
 その質問に、彼女はあまり良い表情を浮かべなかった。
「分かりません。でも、何かしているのはぁ、想像し難くないことでぇすね」
「……そうか」
 男はドアを静かに閉めた。ローソクの火が、ゆらりと揺れる。
PREV | NEXT | INDEX
Copyright (c) 2006 All rights reserved.