大地のご加護がありますように
2-2.5
その声がハッキリ聞こえた瞬間、俺の体が後ろから何かに掴まれて、一気に引き戻された感覚がした。
夕日で真っ赤だった世界が反転し、きつい衝撃を全身に受け、視界が戻る。
元の生徒会室の天井が見えた。
そして、
俺の体は爛に思いっ切り抱きしめられていた。
頭に何か柔らかな二つの山の感触があったが、今の俺はそんなことを気にする余裕など全くなかった。
一体何があったのか。
そして、なぜ俺は爛に抱きしめられているのか。
爛は俺を抱きしめたまま、目の前にいる生徒会長とにらみ合っていた。
今までとは、全く違う雰囲気。二人の間にはかなり険悪な雰囲気がただよっている。
「……お姉様」
その声は低く、そしてかなり迫力のある声だった。
「何を企んでいるのですか」
ハッキリ言って、何が起こったのか未だに俺は把握できないでいた。
とりあえず分かることは、魔飢留姉妹が目の前でにらみ合っていることと、俺が爛に抱きしめられていることだ。
「何を、って何かな。爛」
「とぼけないでっ!」
爛は声を荒げる。
「お姉様は『力』を使ったじゃない! しかも、何も知らない大地君に。一体何を考えているのよ!」
しかし、生徒会長はそんな爛を見ても微動だにしない。
それどころか、小さな笑みを浮かべている。
「さぁ? それは爛、いくらあなたでも教えられないわ。確かに私は真野君に使ったわ。でも、ほら、この通り何ともないじゃない。何か不服でもあるの?」
「で、でも!」と爛は反論しようとするが、その声に先ほどまでの迫力はない。
全く現状把握ができなく、混乱したままの俺の顔を生徒会長がのぞき込む。
「ほら、真野君はぴんぴんしてるじゃない。どこも怪我したりしてないでしょ? まぁ、どうやら混乱しているようだけどね。私はただこの子と話がしたかっただけ。それに私は確認することができたしね。もう終わったわ。ほら、爛。連れて行くなら連れて行って良いよ」
笑みを浮かべ、生徒会長は部屋のドアを開ける。
爛は呆然とその姿を見て、その後俺を見た。
その目は、哀しみと、怒りと、そして少しの躊躇いが混ざっている。
俺を放すと、彼女は立ち上がり、手をさしのべてくる。俺はその手を受け取り、立ち上がった。
そして、爛に引かれるがままに部屋から出て行った。混乱したまま俺は出て行く。
バタンと音がして、ドアが閉まる。日はすでに真っ赤に校舎を照らしていた。
何を聞いても、爛は答えてくれなかった。
混乱は度合いを極め、ただたださっき起きた事への不信感と恐怖感だけが俺の中で堆積していく。
彼女はただ、「もう、お姉様には近づかないでと」言い残し、俺よりも先に帰ってしまった。
放課後の校舎。
窓から差し込む夕日が俺を照らす。
とりあえず、今日は帰るしかない。どうせ考えても無駄だ。早く帰って、飯食って、風呂に入って、死んだように眠ろう。
あまりにも混乱した事態に遭遇するとき、必ず俺はそうしている。
無駄に考えない。焦らない。
早足で家へと向かう。
俺から伸びる陰が、長い。
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