大地のご加護がありますように
2-1.5
ピクンと、彼女の肩がはねた。
爛は感じ取った『力』の『流れ』に首をかしげる。
何か、嫌な予感がした。
教室内では、さっきから北條が『真野のくそ野郎!』と暴言を吐きながら大林を蹴飛ばしている。
爛は教室を見渡す。教室には、まだ何人か残っており、各々が会話をするなり、帰りの用意をするなりしている。
一年生はまだ部活に所属していない者もいる。中等部から進学してきた者は別として、外部から来た人たちはまだ部活動に所属していないのが普通だ。
感じ取った『力』には、かすかに違う『誰か』の『力』が混ざっていた。
最近、姉の様子が変だ。
そう爛が気づいたのは、入学式のちょっと前のことだった。と言っても、本当に些細な変化だ。
母が死に、父は『あの世界』で名が売れた学者だったので、家には滅多に帰らない。二人はいつも一緒にいた。だから、爛は麗の些細な変化に気づくことができたのかもしれない。
絶対に何かがある。
姉を心から慕う爛はそう思った。が、何も分からなかった。
元々、姉には秘密が多かった。
仲は良かった。が、姉は多くを爛には語らなかった。なので、爛には何も見当が付かず、ただそんな麗を見ることしかできない。
昔からそうだった。
何でもできる姉。そして、そのおまけの自分。
でも、爛は姉に嫉妬したりなどしなかった。むしろそのことが誇らしかった。
そんな姉の妹であることが、自慢だったのだ。
感じ取った『力』は明らかに姉のものだ。
爛は教室を再び見渡す。この部屋からは何も感じ取れない。とりあえず、教室からでないことには何も始まらない。
廊下に出て、彼女は歩き出す。
胸がざわつく。こういう予感は、必ず当たる。
ふと、脳裏に大地の姿がよぎる。
初めて、大地と会ったとき、爛はどこか懐かしさを感じていた。
だからだろうか、苦手な男である大地に積極的に話しかけることができ、あろうかとかほとんど初対面なのに名前で呼んでね、とか言ってしまったのである。
今思うと、実に恥ずかしい。頬がかぁ、と熱くなる。
いや、今はそんなことを考えている場合ではない。
とりあえず、姉が何かをしているということは確かだ。この『力』の動き、ハッキリ言って普通じゃない。
自然と、爛の足どりは速くなっていた。
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