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大地のご加護がありますように

1-3

 内心の動揺を押し殺し、俺はそつなく自己紹介を終えた。
 会長の妹が、自分の目の前にいる。
 それだけで、あの含みのある、不気味な笑みを思い出すのだった。
 ――あの目は、普通じゃない。
 その時間の終了を告げるチャイムが鳴り、思考も一時中断される。
 今日はもう終わりのはずだ。鞄を手に取り、教室から出ようとドアに向かう。
「あなた、ただ者ではないですね?」
 突然そう声をかけられ、俺は振り返った。
 その視線の先には、本当に絵に描いたかのような牛乳瓶の底みたいな眼鏡をかけ、三つ編みのお下げを二本、頭からぶら下げている女が立っていた。
「ああ、感じる。感じるわ。あなたの内なる力を感じる……」
 うっとりとした表情を作り、女ははぁ、と息を吐く。ハッキリ言ってかなり不気味な光景だった。
 とりあえず、そんな彼女を無視して教室のドアに手をかける。こんな狂ったやつに構ってなどいられない。体力の無駄だ。
 俺がドアを開けた音で女は自分の世界から戻ったのか、帰ろうとする俺の腕を慌ててつかみ引き止めた。
「ちょ〜と、待ちなさいよぉ」
 俺はうんざりしたような表情を作り、仕方なしに女の方へ向き直った。
 女はかなり小柄で、身長は俺の胸辺りまでしか無く、そのため俺を見上げてくる。首がきつそうだなと思った。
「あなた、とんでもない力があなたの中にあるわ」
「はぁ」
 とりあえず頷いてみる。こういう女とは関わらない方が良い。本能がそう囁いていた。しかし、彼女はクラスメートだ。そんなに冷たくあしらったりなんかするとクラスの中で風当たりが悪くなってしまうかもしれない。入学初っぱなからクラス内で居心地が悪くなるのだけは勘弁だ。
 話だけでも聞いてやるか、とすぐ近くの席に座った。女は立ったままで、今度は俺を見下ろしてくる。
「分かってるの? とんでもない力よ? 恐ろしい力よ?」
「いや、わかんねぇ」
 分かるわけがない。俺は苦笑いを浮かべる。この女、相当痛い女だ。
 女は人差し指をびしっと俺の額に向け、ペラペラとしゃべり出す。
「そんな強大な力、すぐにあなたの身を滅ぼすわ。ええ、あっという間にね。もしかしてあなたの身を滅ぼすだけではすまないかもしれないわ。有り余る力はそれを持つ人を蝕むものだから。それに、あなたは自覚してないようね。もっと危ないわ。自覚していなかったり何も知らなかったりすると本当に危ないんだから」
 頭が痛くなってきた。こいつ、ホント訳が分からない。
 頭のねじが何本かぶっとんでるんじゃないのか? って思うくらい意味不明なことを述べている。
 さっきからこっちを見る連中の視線が痛かった。早くこいつの長ったらしい話が終わらないものかと思う。いや、マジでここから逃げたい。どうやらさっきの話を聞くという選択はかなり間違っていたようだ。
 女は大きな声で話し続ける。すでに聞く気も失せている俺はとりあえず相づちくらい打ってやる。
 ふと辺りを見ると、一人の女と目が合う。
 ――ええっと、魔飢留爛だったっけ?――
 どうやらじっとこっちを見ていたようで、俺と目が合うと慌てて顔をそらした。
 ――変なの――
 再び意識を目の前の電波女に戻す。未だに力がうんたらこうたらと話を続けている。
 笑う以前にもう俺はただただ呆れていた。よくもまぁ、こんなでたらめな話を初対面の、しかも帰ろうとしているクラスメートを捕まえて喋っているんだ、この女は。
 突然、電波女が再びビシッと人差し指で俺を指した。突拍子な事だったので少し驚く。
「だからっ――」
 さっきより声量をアップして、電波女は叫ぶ。
「魔術研究部に入りなさいっ!」
「はぃ?」
 何で『だから』なのかは話を聞いていないのでサッパリ分からなかった。
 気がつけば呆然としている俺の手に入部届けの紙が握らされ、電波女は「明日までに渡すこと!」と言ってさっさと帰ってしまった。
 ………………
 …………
 ……これをどうしろと?
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