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彼と彼女の1500という数字

第3話 やっちゃった

 やっちゃった、て思ったね。やっぱり。
 高校入ったのよ。で、その高校の水泳部、めっちゃ部員少ない。
 ともかく規模が小さい。何にも考えてなかったからね、俺。失敗しちゃった。
 オイオイ、勘弁してくれよ。まぁ、調べなかった俺も悪いんだけどさ。
 学力はしっかりしてるよ。俺、馬鹿じゃないもん。県内指折りの進学校らしい。それでいて、部活も熱心な学校。
 そう聞いたからこの学校を選んだんだけどさ。どうやら水泳部は例外らしい。マジでしくじったなぁ。
 しかも、俺は普通科に入学したから、さほど部活の時間はないらしい。
 あ、この高校、スポーツ科もあるんだよ。ただし、入学するには推薦がいるけどね。俺は思いっ切り駄目でしたぁ。だってスポーツ科に推薦でいける程の成績出してないから。まぁ、別にスポーツ科じゃなくても水泳はできるんだからいいけどね。
 とりあえず水泳部には入ったよ。てか勧誘されたの。
 どうやら俺、そこそこ有名人だったらしい。一五〇〇メートルの新星ってね。やだなぁ、照れるじゃないの。
 なんか、うちの部は人数少ないくせして強いらしい。部員十二人でインターハイ五人出場?! 凄すぎ。なーんだ、心配して損したぜ。まぁ、俺もこれからこのメンバーに混じり、練習するわけですけど。
 この高校は俺の家から遠いので、下宿する羽目になっちゃった。
 うへ〜、それでも学校から十キロも離れてる寮じゃん。しかも、電車もバスもないし。部長は自転車で行け、って言ってるけど毎朝は辛いなぁ。
 それでもそうしないと学校通えないので頑張って自転車こいで行ってますよ。頑張るって決めたからね。中途半端は嫌いなの、俺。
 て、ことで練習に励んでおります。けどまだプールに水無いんで陸トレですが。
 腿あげやったり、腕立てやったり、ストレッチやったり、チューブ引きやったり(野球部かよ!)。まぁ、いろいろやりましたよ。
 しかも、どれもこれも練習量が半端じゃないの。メチャメチャキツイ。腕立て百回十セットとか、背筋五十回二十セットとか、チューブ引き十回百セットとか。
 ……、まぁ結局全部千回ずつってことなんだけどね。しかも先輩達はサッサとこなしていってるし。流石です。もう頭が上がらなかったね。俺もヒィヒィ言いながらこなしてたけど。
 更に、長距離専門の選手専用のメニュー渡されたよ。ちなみに、長距離は俺と、三年の大西さん、二年の川辺さんの三人。
 大西さんは四〇〇の自由形と一五〇〇の自由形やってるんだけどね。まぁ、速さは俺以下。もちろんインターハイは出てない。てか、こんなに体力無いのによく長距離やってるよって言いたくなるね、ホント。しかもかなりでかい顔してる。どうやら俺の事気に入って無いらしい。
 そら一五〇〇メートルの新星ってちやほやされてる一年を、パッとしない三年が気に入るわけ無いよね。しかも種目一緒だし。練習するのも一緒だし。俺も一緒にやりたくないね。
 で、もう一人の川辺さんは女。確か二〇〇の背泳と八〇〇の自由形やってたと思う。本命は八〇〇の自由形だけどね。あ、女子の種目では一五〇〇の自由形ってのは無くて八〇〇があるんだよ。男子には八〇〇はないけどね。
 そして滅茶苦茶速い、この人。去年はインターハイで八〇〇の自由形で準優勝だったらしい。憧れるぅ。しかも、めっちゃ可愛い。プロポーションだって最高。身長は百七十ちょい。かなりすごいモデル体型。ボンキュッボンだよ。マジすげぇ。しかもめっちゃ優しい。ああ、俺、惚れちゃうかも。
 でも、練習となると異常に厳しい。どうやら、あの人かなりの練習の虫みたい。男子でもビックリする程の練習量。ひゃぁ、すげぇなぁ。あのバーベル、絶対に俺でも持ち上げられないって。そんなきゃしゃな腕があのバーベルを軽々と持ち上げるなんて信じられねぇ…。
 俺も見とれてる場合じゃなかった。サッサとこのメニューをこなさないと部長に怒られる。
 俺はなぜだか部長に気に入られた。
 入学式を済ませ、最初に話したのは同級生でも、担任でもなく、この人だった。
 ハッキリ言って、この人はかなり凄い。そして、滅茶苦茶濃い。だって初めて会って、発した言葉が
「何じゃ? ヒョロヒョロじゃの!」
 ですよ? もはや常人の言うことではない。
 その部長はかなりの筋肉質。しかし、かなり背が低い。たぶん、俺より二十センチは低い。あ、俺は百八十センチですよ。
 初めて会って、俺を見上げてこんなこと言うんだもん。俺、かなりびびったね。だって、初めて会ったのだから誰かわからないっしょ? 何だ、このチビって思ったね。
 その後、一応部活動見学に水泳部行ったのよ。で、そこにいたわけ、さっきのチビが。近くの部員に聞いたらあれが部長だって。もうビックリ仰天。驚いた。
 その部長も俺に気付いたのか「おー! 新入り! ゴールデンルーキー!」って声かけてくるし。もう笑うしかないね、ホント。
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