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彼と彼女の1500という数字

第2話 1500走ったことある?

 ねぇ、突然だけどさ、1500メートル走ったことある?
 そら、あるよねぇ。中学生とか高校生の時とかにね、体力テストとかで。でも、あんまり目立たないでしょ? 当たり前。一五〇〇だなんて中途半端な距離、目立つわけ無いよね。ね。そうでしょ。
 一〇〇メートルとか二〇〇メートルとか一万メートルとかフルマラソンとかは目立つくせに、何か一五〇〇は地味なんだよね。うん、そうだよ。だってやっぱ微妙だもん。タイム聞いたって素人には速いのかどうか分からないもんね。
 でも、まぁ私は今、一五〇〇をやってるわけなの。で、意外と苦しいの、これが。一五〇〇なんてあっという間に走れるだなんて考えてた私が馬鹿だったわ。無理よね、こんな距離。
 初めて大会出た時なんて惨敗。後ろから四番目くらい。もうボロボロで滅茶苦茶。やっぱりそれまで走り幅跳びの選手だったからだろうなぁ……。走るのに慣れてなかったのよ、きっと。毎日ジャンプばかりしてたからね。
 やっぱり負けたのは悔しかったわね。私、負けず嫌いだったから。ひょんな事から一五〇〇出て、負けて、ホントに燃えたわ。
 もう、それからは毎日走り込み。走り幅跳びはやめちゃった。結構成績は良かったんだけどね。私ってやる、て決めたらとことんやるタイプだから。
 そして男子部員もビックリする程の走り込み。一日十キロなんて当たり前だったわよ。あ、冬場は三十キロくらいね。
 がむしゃらに練習したのよ。もう、毎日汗でベトベトになってね。夏場なんて、日焼けで真っ黒になっちゃった。私、これでも女の子なのよ。ああ、もうイヤッって思ったこともしばしば。
 で、次の大会。
 大きな陸上競技場に入って、トラックから観客席見上げたの。晴天でね、空がまぶしかった。ああ、ここで今までの練習の成果を発揮するんだって感じたたの。
 やっぱり少し緊張しちゃってさ。少し足が震えるのよね。知らずに拳を握りしめてて、手のひらに汗が滲んでた。でも、深呼吸したら少し落ち着いたけどね。
 結構一五〇〇って出る人が多いのよ。まぁ、ほとんどの子が八〇〇とか四〇〇が本命のようだけどね、やっぱり。
 サブトラックで軽く走って、アップ。腿あげやったり、ストレッチしたり。その日はかなり体が軽かったから、なんかいけそうな気がしたの。
 バッグからドリンク出して飲んでたら、小さな子がタオル持って近づいてくるのよ。誰かしらって思ったら後輩の男の子だった。しかも、なんか可愛い。真っ赤な顔しちゃって、はい、お疲れ様ですぅ、てタオル渡してきたのよ。笑いそうになったわね。あんまりにも女の子みたいだったから。
 しかも、お疲れ様って私まだ、走ってないし。そのこと言ってやったら、あ、とか言って、すいみません、て頭下げて走って行っちゃった。しかも途中で転けちゃってるし。さすがにそれは笑っちゃったね。一人で大爆笑。なんだ、あの子、私に気があるのかなって、自惚れしちゃった。はは。でも、そのお陰でかなり緊張がほぐれたわね。
 その後、最終コールに行って、招集場所に集まった。みんなわらわら集まってきたね。せっかく、さっき緊張が和らいだのにまた、ちょっと緊張してきちゃった。
 でも、こういう微妙な緊張って最高。かなり快感。いいわねぇ、感じちゃう。やっぱ、走る前にはこの程度の緊張が必要ね。思わず少し顔がにやけちゃった。
 前の種目が終わって、いよいよ私の番。スタートの位置に立ったわ。私は少し外側の位置にいたっけ。外側の方が抜きやすいからね。大回りになるけど。軽くジャンプして、肩をまわしたわ。足しか使わないんだけどね。まぁ、リラックスするため。
 みんな、緊張した顔してるの。私だけだったわ、ニヤニヤしてたの。これでも緊張してたんだからね!
 スタートのピストルの鳴って、一斉に飛び出す。私は早速トップに立ったわね。だって、誰かの背中見ながら走るって、気分良くないでしょ。
 とりあえずグングン加速して、後ろを引き離してやったのよ。なぜだか、全然疲れなかったの。トレーニングの成果ね、きっと。
 でも、後半はやっぱりちょっと苦しくなってきた。前半、飛ばしすぎたからね、きっと。少しずつ後ろとの差が縮まってくるのよ。ヤバイって思ったわ。足が少しふらついてきて、ゴールが遠くに感じて。いやだ、私ってこんなに柔な女だったっけって思ったわ。やっぱりスポーツ選手が弱気になったら駄目よねぇ。
 後半はフォームなんか気にせずにとりあえずがむしゃらに飛ばしたして、必死に食らいついてくる後ろを引き離していった。私も必死なのよ。当たり前でしょ。
 で、そのままトップでゴールイン。最高の気分だったわ。もう本当に快感。やっぱり一番っていいわ。あの、ゴールテープを切る瞬間なんて最高ね。少しイッちゃった。……って違うわよ、誤解しないでよ。そのくらい感動したってことだからね!
 さっきタオル渡してくれた子がまた私の方へ走ってきてね。「先輩!すごいっすよ。大会新記録っすよ!」って言ってきたのよ。嬉しそうな顔して。やったのはあんたじゃなくて私なのって言いたかったけど、やっぱり疲れてて、頷いてやるのが精一杯だったわ。
 後で聞いたけど、大会記録を大幅に更新してたらしいわ。全国中学もざらじゃないってくらいのね。
 でも、やっぱり全国中学は無理だったわ。近畿大会で決勝でぼろ負け。その時は本気で泣いたなぁ。
 だから、今も高校でも走ってるってわけなの。健気でしょ。頑張ってるんだよぉ。本気でインターハイ目指してるんだから。
 負けず嫌いな私はトップにたたないと気が済まないのよ。また、前のような快感を求めてね。
 だって、私は一五〇〇メートルのRUNNERだからね。
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