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彼と彼女の1500という数字

第15話 で、何でまたこの人と一緒なんだ?

 もうね、ホントきつかった。
 あれだけ走り込んだことなかったから、マジでげろ吐きそうになった。ホント冗談抜きで。
 でも、結構爽快だったね。なんていうの、ほら体を動かすとやっぱりさ。こう言うときに、ああ、自分は生きてるんだなぁ、とか思ったりするワケよ。いや、似合わねーとは思うけど。
 ロードワークは思っていたほどきつくなかったんだけど、その後がホント悲惨。川辺センパイにすんげーしごかれた。あり得ないよ、あの人。陸上部の連中とタイマン張ってたし。陸上部でも十分通用するんじゃないの? もしかして、その方がいいかも。あの巨乳が走ってダイナマイツに揺れるところとか見てみたいね、すごく。本心から。
 何てスケベなことを考えてる場合じゃなくて、とりあえず走る走る走る。
 五十メートルのダッシュを三十本いった後、インターバルで二百メートルを三十五秒で十本。それが終わったら五千メートルのLSD。LSDっていうのはLong Slow Distanceの略称。長距離をゆっくり走ることにより体質の改善を目指す、陸上競技長距離走のトレーニング法なんだけど、これって結構競泳やってる人にも有効。めちゃくちゃに上がってた心拍数をある程度まで落として、テンポよく走るのが理想。じんわりとした汗がにじんでくるのがこれまたいい。
 やっぱり、長距離やってるとある程度自分で心拍数がコントロールできないと駄目だわ。うん。序盤からガンガン飛ばしてぶっちぎりで勝つのはいいけど、やっぱり最初のペースをあまり落とさずにゴールするのが理想的なのは確かだよね。一五〇〇泳ぐのって、走るのでは五〇〇〇や一〇〇〇〇に近いモノだと思う。いや、どうかは知らないけどさ。でも、泳ぐのと走るのは全然違うし。
 しっかし、なんてーか走るのってつまんねーや。泳ぎたいね、やっぱし。ほら、水の中って陸上より断然居心地いいし。ま、練習始まると水の中も陸の上も大差変わらないけど。いや、どちらかっつーと水の中の方が体温上がって温く感じるからつらいね。暑いんだって、ホント。泳ぎこむとさ。
 なーんてことをLSDやりながら考えてたわけ。俺って雑念ホント多いね。でも、そうでもしないと練習ってやってっけないって。集中するのも大切だけど、ずっと集中し続けてたら三時間も四時間も練習できねぇし。
 で、実際には、まだ他にもいろいろやったんだけど、きつすぎて意識飛んで覚えてないや。うわー、こんなにやりこんだのって中学一年の頃以来だ。まぁ、質も量もレベルが違うけど。
 気がついたら、今日の練習はお終い。陸上競技場の地面にぺたんと座り込んで、ゼーハーいってた。あー、こんなのがまさか四日も続くのか? 畜生、今頃親父とお袋は俺がいないことからって旅行に行きやがって。こんなんならついていった方が良かったかなー。
「うい、お疲れ」
 突然顔に冷たい感触がしたかと思ったら、アクエリの缶だった。見上げる先には部長が。
「あー、可愛い女の子に貰えたんなら元気いっぱいになれるんだけどなー」
 とか言いながら缶を受け取る。ホント、そーだよ。こんなむさ苦しい部長じゃなくてなー。
「カカカ、悪かったな、ルーキー」
 ホント、部長はどっか変ですよぉ。なんて笑い飛ばしたら、頭蹴られた。結構痛かった。


 宿泊施設はなんかかなり綺麗なの。やっぱり、しっかりと整備されてるからだろうねぇ。でも、壁が薄いのが気になるね。ほら、この階の部屋の壁、薄そうな音してる。これじゃあ筒抜けだよなぁ。あ、なるほど。最初からアレ対策になってるのか。
「壁なんて叩いて何やってるの?」
 おっと、川辺センパイじゃないッスか。こんばんはーッス、とかなんとか適当に挨拶すると、クスクスと笑う。どっか変だったか、俺。
 とりあえずいやぁ、ちょっと壁に興味があって。とか何とか答えておく。川辺センパイは優雅にちゃんとストレッチして寝るのよ、と言い残し立ち去ってった。ふうむ、会話がかみ合っていない気がしたがまぁ、いいか。気にしたら負けだよな。
 今日はとにかく疲れた。早いところ部屋いって寝るとしますか。そう言えば、まだ俺の相部屋のやつ、誰なのか知らなかったな。ま、部屋いけば分かるか。
 上の階が水泳部の男子が泊まってるとこだから、階段を上がる。イテテ、足が筋肉痛になってるし。何ちゅー練習じゃ。筋肉痛なんてホント久しぶりになったなぁ。
 ドアを開けて中を確認。
「よぉ、待ってたぜ、ルーキー」
 で、何でまたこの人と一緒なんだ? マジかよぉ。
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