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彼と彼女の1500という数字

第14話 溜息出るわね、もぅ

 冗談じゃないわよ。そう言って抗議したかったけど、残念ながら一年の私にはどうにもできないのよね。
 仕方ないから、まぁ従うけどさ。
 水泳部との合同合宿なんて、ホント意味あるのかしら?
 それに、あのバカ男とまた会わないといけないんだなんてサイアク。絶対もう会わないと思ってたのに。
 あ、うちの学校、すんごく規模が大きいから校内で会う人って限られてるのよね。しかも、普通科と体育科なんてホント接点ないし。
 しかし、なんでか知らないけど中島さんは今からかなり楽しみにしてるみたい。どうやら、中学時代は合宿とかお泊まり会とかしたことなかったんだって。一体どんな家庭で育ったのか、すごく気になる発言よね、ホント。
 でも、なーんかそれとはまた違ったことを期待しているような気がするわ。女の勘ってやつだけどね。意外と女は勘が鋭いから。
 ま、別に私には関係ないからいいけど。とりあえず、頑張って走るのが私の役目であるから。
 朝早くから学校に集まってバスに乗り込む。バスは二台用意してあったわ。ちなみに私は一号車。あのバカは二号車だったみたい。
 バスの中で顧問から諸注意があったけど全く聞いてなかったや。別に気にすることでもないだろうけどね。ちゃんと挨拶しろとか、遊びに行くわけじゃないとか、夜はさっさと寝ろとか、若さをはっちゃけるなとか。ていうか、ちゃっかり聞いてるじゃない、私。
 県内のスポーツ会館が会場なんだけど、山奥にあるから時間がかかったわ。少しウトウトしてたら着いたけど。
 ここは中学の時も何度も来たけど、やっぱりちゃんと整備されていいわね。日本でも有数の施設らしいし。まず結構高原にあるから中距離選手の私としてはトレーニングのし甲斐があるわ。ほら、高地トレーニングとか言うでしょ? 最大酸素摂取量とか云々。やぱりね、一五〇〇は競技の中じゃそれほど長くないけど、中途半端な分つらいのよね。波に乗る前にゴールしちゃうというか。それに、結構ハイペースで進むし。第一、激しい。
 トレーニングの方法は班別で行うみたい。レベルと、種目の傾向で割り振るみたい。で、水泳部も混ざる、みたいな?
 一五〇〇は結構人数がいるから私は陸上だけの班になるんだと思ってたのよ。水泳部はたったの十二人だし。うちは六十六人。五倍以上だからね。あのバカとはよほどのことがないと一緒の班にはならないでしょう。
 で、
「何? このメンバー?」
 思わず声に出してしまった私。
 同じ班のメンバー、全然予想と違ったし。っていうかなんであのバカがいるのよ!
 まぁ、中島さんがいるのはいいとして、相手の変な部長もいるし。勘弁してよ。
 他にもなんかすんごいきれーな人がいる。すっごい、何? あの胸。水泳やってるとあんなに大きくなるのかな? ああ、やっぱり中島さんもちらちら見てるし。ていうかあのバカ男、鼻の下ばりばりのばしてる! キモッ!
 こうなってしまったのは仕方ないし、とりあえず練習しなきゃ。合宿だもんね。これが終わったら春期総体もあるし。やっぱり、出るなら春からでたい。高校のレベルを早くから実感したいのもあるし、自分のレベルがどこまで通用するのか知りたいしね。こんな連中とやるのは気が進まないけど。
「ヨロシクね、ええと、長谷川さんていうのかしら?」
 そう言って優しく微笑んでくる例の乳デカ女。すでに私の中では気に入らない女リストに見事入ったのだけれど、一応先輩のようなので礼儀はわきまえておかなきゃ。そうですぅ、よろしくお願いしまーす、とか言って大きく頭を下げる。ふふふ、とか上品に笑っちゃって、もー。本当にスポーツやってる女なのかしら。もしかしたらテニスかも、本職はお蝶婦人とか?
 とりあえず、練習練習。


 侮ったわね。まさか、こんなにすごい人だっただなんて。
 今、ロードワークから帰ってきたところなんだけど、目の前でなんかバカ男と変な部長が二人してすっごいしごかれてる。しかも、あの例の乳デカ女に。
「もっとシャキッとしなさい! こら、腰が曲がってる。フォームがバラバラ! 呼吸が乱れてる! ああっ! もう、サークル間に合ってないわよ! 3秒オーバー、すぐ取り戻す! 遅い遅い遅いっ! 練習ナメてんの? あんた達!」
 中島さんも私の隣であんぐり唖然。すごいわねぇ。人ってホント第一印象で決めたらだめね。そうそう、あとで聞いた話になるんだけどあの人ってインターハイにも出たことあって、そのときの強化合宿のあだ名が恐怖の練習鬼だったそうよ。彼女と一緒に練習した人たちの何名かが本当にぶっ倒れたんだって。てかその何名かって全員インターハイ出場の選手じゃないの? 一体どんな練習だったのよ、ホント。
 なんだか、うまくやっていけそうな気がするわ。女の勘ね。そりがすっごく合いそうな気がする。今日の夜はきっと盛り上がるわね、きっと。
 さて、私たちも練習しなくちゃね。今日はせめて二十キロは走り込まないと。合宿は時間が限られてるんだからねっ!
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