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彼と彼女の1500という数字

第16話 ホント、ステキです。

 部屋の割り当ては私と中島さんに、例の川辺先輩の三人。どーやら練習班で同じ人と同じ部屋にしたみたい。
 各部屋備え付きのしょぼい風呂から上がり、布団の上に寝転がる。ふいー、やっと休めるよぉ。
 窓際に座って、部屋を見渡す。中島さんは荷物の片づけやってるし、川辺先輩は何? 電話してる。確かこの合宿ってケータイ禁止じゃなかったっけ?
「それは陸上部の話で、水泳部は別にいいのよ」
 ええ、そんなのアリ? だって、みんな足並み揃えないと規律ってもんの意味がないんじゃないんですかぁ、とか聞いてみる。すると、先輩はフフと笑って、大丈夫よ水泳部と陸上部の相部屋ってここだけなんだから、って答えた。なるほど。そういう訳ね。
 荷物の片づけを終えた中島さんがこっちに寄ってくる。
「あれ、川辺先輩。どこに電話してたんですか?」
 首をかしげながら間延びした声で聞く。先輩はちょっとね、と苦笑い。すかさず恋人じゃないんですかぁ、なんて聞いてやったわ。すると、なに、先輩、赤くなってるじゃないですか。先輩の隣に座り込んで、うりうりと肘でつつく。先輩、やっぱ図星じゃないんですか? どんな彼氏サン? 格好いい? なんて質問を連打。中島さんも最初はキョトンとしてたけど、やっと話の内容が分かったらしく、興味津々に話に加わる。
「え、えーっとね。か、彼氏じゃないのよ?」
 なんて小首をかしげて言ってもだめでーす、可愛いけど駄目でーすよ、せんぱーい、なんて言って追いつめちゃう。中一の頃が思い出されるなぁ。あの頃も先輩にこんな感じでいろいろと話、聞いてたっけ。
 過去の感慨にちょっぴり浸りながら、女三人でわいわいきゃっきゃ。普段はぴりぴりした競技者だけど、一旦その舞台を下りれば同じ女子高生だもんね。ちょっとは楽しまなきゃ。
「誰と電話してたんですか、ホント」
 夜は、こうして更けていく。


 明らかな寝不足だったわね。私らしくない。
 なんて思いながら、私はストレッチをしていた。昨日、ちょっと騒ぎすぎたかしら。欠伸が止まらないわ。まぁ、走ってたらそのうち紛れるでしょうけど。
「おお、女子選手諸君。なんだか一様に眠たそうだな! 張り切っていこうぜ、張り切って! まだ二日目なんだからな!」
 むさい顔した水泳部の部長が登場。朝もはよから元気なこと。その後ろを、げっそりとした顔で歩いているのは例のバカ男。一体何があったのか。確かあの二人、相部屋だったはず。うぇ、想像するのも嫌。気持ち悪い。
「ちょっと、話が盛り上がって……」
 明らかに怯えている中島さん。ちょっと、このきも面、近づかないでよ。ホント、水泳部の男子はろくでもないやつしかいないんだから!
「ほら、部長。この子、怯えてますからあっち行ってください!」
 あーらら、先輩、言っちゃったよ。うっわ、めちゃくちゃ悲しそうな顔してる。情けない奴ね。バカ連れてとぼとぼ向こうに行っちゃったよ。
「ちょ、先輩。そんなストレートに言っていいんですか?」
「いいのいいの。どーせ、あんな部長なんだから。気にしちゃダメよ」
 さっすが、先輩。言うことが違う!
 とりあえず、眠いのは仕方ない。練習してたら眠気なんて覚めるでしょう。今日は一日どっぷり練習できるんだからね。しっかりやり込んでおかないと。夏の大会ではみんなをアッと言わせるんだから。
「うわぁぁ! 西田! 俺はもうダメだ! 川辺にあんなこと言われて平気な男などいない!」
「って、本当に気持ち悪いですよ、部長! 頼むからぐしゃぐしゃの泣き顔で近づかないでください! こんなの、放送できませんって!」
「そんなぁ! お前もそんなことを言うのか! うりゃ、近づいたる。うりゃうりゃ」
「ぎゃー、気持ち悪い。あ、背中にくっつくな! 鼻水付きますって、だから。うわ、なんかヌルッときたんですけど、ヌルッと!」
 あー、なんか精神衛生上よろしくないものを見て、一気にやる気失せた。
「ホント、気持ち悪いわね。あの二人は」
 にこやかな顔で毒づく先輩。ホント、ステキです。


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