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彼と彼女の1500という数字

第11話 ぶ、部長ぉ……

 ビックリした。
 さっきの女が突然近づいてきて、「アンタ、何者?」なんてものすごい迫力で聞くモノだから、マジびびった。
 てか最近の女は怖いなぁ、と痛感した。やっぱり、女だからって舐めちゃいけないね、女の方が怖いよ。
 俺はとりあえず呆然としていた。女の鋭い視線が俺の体に刺さる。や、やめろ! やめるんだ! 体に穴が開く! なんて叫んでみたかったが、そんな雰囲気でないのでやめた。これはいつも通りの軽いノリで済ます事なんてできないな。さて、どうしたものか。
 とりあえず謝ってみるか? 確かに、俺が喧嘩売ったのが原因だからな。怒っているのも無理はないだろう。でも、怒っているなら普通声なんてかけないよな。しかも、「アンタ、何者?」なんて聞くわけがない。
 じゃあ、適当に変な話題でもふって、その場をしのぐか? いや、きっとコイツならビンタでもグーでもいいから俺に攻撃してくるだろうな。今の俺には体力がないから完璧に無防備だ。もしかして天を舞うかもな。遺書でも書くか?
 それなら、逆に俺がキレて怒鳴りつけながら退散するか? でも、怒る理由がないな。一応、俺、負けたし。謎の激怒は単なる笑いのネタとしか見られないかもしれない。
 もしかして、コイツ、俺を誘惑しに来たのか? その可能性は大いにあり得る。俺は中学時代、女には良くモテた。まぁ、片っ端から振ってたけどさ。俺の気に入る女がいなかったものあるし、そういうのは俺は深く考えるからね。
 もしもそうならどうしよう? コイツ、顔はかなりの美人だしな。体も結構いいジャン。スラッとしてるし。まぁ、川辺さんには劣るけどさ。一般婦女子よりかはかなりいい線行ってる。外見はgoo。
 でも、やっぱ問題は中身だな。中身がトンチンカンだったら最低だしな。うむ、コレは一つ、もう少し観察ということで……。
「だから、あんた、何者なの?」
 おっと、俺が妄想ワールドに旅立ってたからコイツのこと忘れてたぜ。イカンイカン。とりあえず何とかこの状況を脱しないと。仕方あるまい、俺の必殺、マシンガントークで反論の隙を与えず、そのまま押し切り、逃げてやるぜ。
 とりあえず一心不乱に俺は喋った。自分が何を口走っているのかは分からないけど。いっつもこうなんだよ。思いっ切り話し始めると、その内容は自分も分からない。まぁ、今回は別にいいだろう。どーせ、この場をしのげばいいのだから。
 ほら、ひいてる、ひいてる。効果でてるね。まぁ、かなり呆れ顔なのは別にいいとしよう。よし、あと一息だ。
 と、油断したらもう終わりだね。ホント、コレも一瞬だったね。一気に前に詰め寄られて、襟首掴まれた。うわ、やっぱ怒ったか? 俺はパタリと喋るのをやめる。ヤバイ、ぶたれる。なんて思ったね。
「何度も言わせないでね。私はあんたの謝罪とか言い訳まがいの言葉なんて聞きたくないの。聞きたいのはあんたが何者かっていうこと。分かる?」
 思わず唾、飲んじゃった。それだけ迫力があったって事。女もあなどれねぇ。コイツ、かなり性格怖いぜ。昔の女不良みたいだ。子分とかいそうだな。
「長谷川さーん!」
 もしかして、あれ、子分? 一人の女の子がこっちに向かって走ってきてる。かなり可愛いじゃん。
 お、この女、えーと、長谷川って呼ばれてたな。かなりビックリした目であの娘見てるし。今来られたらまずいのかな? あ、まずいか。俺の首根っこ掴んでるし。
「あれ、長谷川さん何してるんですか?」
「い、いや別に」
 というと、パッと手をはなしやがった。俺はそのまま地面に落ちる。いて、こんにゃろ、突然離すな!
 俺の無言の抗議はアッサリと流された。無視すんなよ!
「あれ、長谷川さん。この人は誰ですか? あ、もしかして彼氏さん?」
 衝撃。いや、マジびびった。オイ、何言ってるんだよ。ほら、長谷川もビックリしてる。部長はニヤニヤしてるし。
「ち、違うわよ。私、こんなクズ人間知らないもん」
 おい、聞き捨てならねぇな。って格好良く言いたかったけどちょっと今の状況、言い出したら殴られそうなのでやめた。俺って根性ねぇな。とりあえず俺も否定。
「いや、違うよ。コイツとは今日、初めて会って、今初めて話した仲だから」
 一応真実を簡単に述べる。彼女は不満そうな顔をする。長谷川はなんだかホッとした顔。なーんだ、そんな顔もできるんだ。
「ちぇ、違うんだ。あ、私中島由紀って言います。とりあえずヨロシクね」
 お、しっかり自己紹介。失礼な長谷川とは大違いだな。由紀ちゃんか、かなりの高得点。これから仲良くしようっと。
「あ、俺は西田勇。こっちこそヨロシク。ちなみにコイツとは本当に関係ないから。うん。ちょっとしたいざこざがあっただけだしね。だいたい名前すら知らないから」
 長谷川は由紀ちゃんに今までの経緯を長谷川視点で説明し始めた。ハッキリ言って、すべて俺が悪いって言うような説明ぶり。何度かそれは違うだろうってところがあって、何か言ってやろうと思ったけどその度に睨まれて何も言えなかった。
 すべての説明が終わると由紀ちゃんがものすごーく好奇心に満ちあふれた目で俺を見てきた。
「で、一体あなたは何なんですか?」
 俺が答えようとしたら、後ろから部長に蹴飛ばされた。
「あ、コイツはウチの部のルーキー。あれだ、ゴールデンルーキーだよ。まぁ、スポーツ推薦じゃないんだけどね。それでもかなり良い線いってるのだよ。あ、俺は水泳部の部長ね。以後ヨロシク」
 あまりにも一気に喋ったので俺はキョトンといしていた。きっとチャンスをうかがっていたのね。はは。あれ、何でコイツらこんなに驚いた顔してるの?
「え、水泳部ですか?」
 先に由紀ちゃんが口を開いた。すると長谷川がプイッとそっぽを向いて、サッサと歩いていってしまった。え、何? 俺、何かしました? すると、由紀ちゃんが重い口で説明し始めた。
「えっと、長谷川さんは一五〇〇メートルの特待生なんですよ。つまり陸上するためだけに学校入ったんですね。だから、西田君が長谷川さんと互角に走っていたことに驚いていたんだと思います。しかも、水泳部だから、更に驚いて、それにかなり怒ってますね。負けかけちゃったから」
 由紀ちゃんはゆっくりと説明してくれた。あー、そーゆことか。だからあれだけ突っかかってきたんだな。由紀ちゃんは俺の顔色を伺っているのか少し心配そうに俺を見上げる。
「そうか。そりゃ悪いコトしたなぁ」
「あ、いえ、そんなこと無いと思いますよ。長谷川さん、強いから。気にしないでくださいね」
 そう言うと、由紀ちゃんはペコリと頭を下げて、走って先ほど長谷川が歩いていった方へ向かって行った。
 部長が後ろから肩を掴む。
「西田ぁ!」
「はい、何ですか?」
「お前はどっちが良いと思う?」
 っとに、コイツは……。俺は救いようの無い眼差しで部長を見ていた。
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