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彼と彼女の1500という数字

第10話 子分が来た

 私が言い放った言葉で、コイツ、なんか固まってるの。何? 私の顔にでも何かついてる? って言いたくなったけど、私まで喧嘩売ったらコイツと同レベルになるからやめたわ。
 とりあえず、私はコイツが何者かということが知りたいわけ。だってインターハイレベルの私と並んで三〇〇〇メートルも走ったのよ。信じられないし、驚き。しかも、陸上部員じゃないし。
「だから、あんた、何なの?」
私はもう一度問いかける。でも、やっぱり反応がない。その隣で、なんかちっこいい男が私とコイツを目で行ったり来たりしながら見てる。だから、何? もう、今日は変なやつと会う厄日かしら。
 目の前の男が立ち上がった。すると、突然手のひらを顔の前にあわせて謝りだした。
「えっと。まぁ、喧嘩売ってスマン。申し訳ない。出来心だから気にするな。練習がパァになったとしても許せ。これは俺が悪いが意地張ったあんたも悪いと思う。でもまぁ、とりあえず俺のせいだけどな。これでもまだ怒ってるなら今度何か奢るからさ。でも高いモノはダメだぜ。俺、金無いからな。あ、無かったら奢れないか。ハッハッハー、こりゃー一本取られたなぁ。ハッハー。傑作だな、こりゃあ。あ、そんな不機嫌な顔するなよ。悪かったって。まぁ、顔も知らないやつに喧嘩なんて売られて無駄に体力使ったらそりゃ怒るだろうけどさ、まぁ、これはこのとーり許してくれ。な、頭だって下げてるんだから。ホント申し訳ない。いや、もう頭が上がらないね、ホント。情けない」
 突然のマシンガントークに私は呆気にとられた。コイツ、何言ってるんだ? だいたい、コイツこんな早口で良く喋るな。つーかこれだけの文を速攻で考えて言えるなんて凄い。いや、なに感心してるんだ、私は。私はコイツが何者なのかが知りたかったんじゃないのか? くそ、コイツのマシンガントークのせいで本来の目的を忘れかけたじゃないの。油断ならないわね、この男。
 とりあえず私は黙ってその話を聞いてやってたわ。遮ってもどうせ話すだろうからね。んでも、なんでこんなヘラヘラと笑っていられるんだろう。私に負けて悔しくないのかしら。それに、後ろにいるちっちゃい男、何笑いを堪えてるのよ。バッカじゃないの?
 ホント、こんな情けないやつを見ていると、昔の腹が立つ思い出ばかりがよみあがってくる。
 男というモノは本当に情けない。今まで、そんな男を沢山見てきた。頼りにならない、弱々しい、情けない、頭悪い。そんな男達が、私にまとわりついてくる。まぁ、私は適当に流していたけど。でも、やっぱり鬱陶しく、嫌気がさした。
 どうせ、この男も同じよ。しかし、納得がいかない。何で、こんなやつが私と互角にやっていたのかが。とにかく、許せない。
 しかし、本当にコイツは何者なの? この変な男は未だに、謝罪か言い訳か判らないような言葉を、延々と述べている。一体、どうやったらそれだけの言葉が出るのかが謎。
 私はグイッと男に近寄り、襟首を掴んだ。
「何度も言わせないでね。私はあんたの謝罪とか言い訳まがいの言葉なんて聞きたくないの。聞きたいのはあんたが何者かっていうこと。分かる?」
 私はできるだけすごみを含み、言ってやった。男がごくりとつばを飲む。あーあ、こんなんだから、私には変な男しかよってこないのかなぁ。なんか昔の女不良みたいじゃない、今の私。今すぐ、後ろから子分が来たりしてね。
「長谷川さ―ん!」
 ………本当に来た。
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