現実主義者の憂鬱
第1話A
私は昔からとびきり運が悪かった。
小さいころは腐った気の床を踏み抜き、手で持っていたアイスクリームを犬に奪われ、ブランコに乗っていたら鎖が切れた。
今では、人気店のケーキを買いに行ったら目の前で売り切れ、バスケットの試合では顔面にパスをくらう。
とりあえずこれといったものをあげたらきりがない。
もう、こんなの嫌だぁぁぁ!と叫んでみたところで何にもならない。
仕方ないので、なんとかそんな現実に立ち向かうのだ。しかし、その度に私には厄災が降りかかる。
そして、私が今まで生きてきた中で一番の悪運はアイツと出会ったことであった。
あれが私の人生の分岐点だったのかもしれない…
―春 志し新たに新学期を迎えた。私「大山香奈」も二年生となり晴れやかな気分で学校へ登校していた。
クラスも変わり、新たな学年になるということは私にとって節目の時期であった。部活に、恋愛に。私はしたいことがたくさんあった。高校二年となると高校にも慣れ、余裕を持って学校生活を送ることができる。私は胸を躍らせた。
「香奈ぁ〜」
聞き慣れた声で呼ばれる。振り返ると親友の「中嶋由喜」がこっちに向かって走ってきた。
「由喜。おはよう」
「あ、おはよう。じゃなくて、香奈。新しいクラス見た?」
「え、見てないよ。だってまだ校内に入ってないし」
「実はね」
「何?」
「今年もおんなじクラスでしたぁ!」
「え、ウソ。やったぁ」
私と由喜は小学校からの付き合いである。これでなんと十年連続同じクラス。私と由喜は切っても切れない関係なのだ。まさに彼女は親友の中の親友。私は新学期早々気分が良くなった。
「じゃあ、教室行こ」
私と由喜は教室に向かう。玄関にはクラス名簿が掲示されており、その周りには人だかりができていた。私は新しいクラスメートを教室に行って確認することにした。
「なかなか良い面子が揃ったじゃん」
私はクラスの人たちの顔を眺めた。悪くはない。これならうまくやっていけそうだった。
「あれ、あの人は誰?」
顔に見覚えがない人が一人いた。
「ああ、あの窓際の席に座ってるやつ?確か赤坂周一だったと思う」
赤坂周一?
ああ、聞いたことがある。確かいろいろなことで有名なやつだった。
彼を表す言葉。冷静沈着。秀才。スポーツマン。
どれをとっても完璧だった。まさに彼は万能少年。そして彼はかなりの現実主義者であった。
この話はすでに一年の夏あたりから有名だった。
ちょうど期末テストが終わったあたりだった。彼は五教科満点というとんでもない成績を収めた。それだけではない。彼は剣道部だったのだが、一年なのにインターハイで優勝してしまったのだ。
あまりにも活躍するために、それを疎み、彼に喧嘩を売った我が校の不良グループはあっさりとボロボロに負かされたという。まさに完璧な少年であった。私は彼と初めて同じクラスになった。
「なんだか付き合いにくそうな人と一緒のクラスになったね」
由喜が苦笑しながら私に言う。
まぁ、たぶん彼とは話す機会など到底ないだろう。私はできたら関わりたくなかった。
私は昔からややこしいことに頭を突っ込んだりしなかった。自分は運が悪いと自覚していたからである。複雑な事態にわざわざ自分から歩み寄ったりなんかしたらきっとまたろくでもないことになるだろう。不良たちに目をつけられた彼なんかと関わりを持ったらきっととんでもない事になるだろう。彼とはできるだけ距離を保っておかなくては。
キーンコーンカーンコーン。
ホームルームの始まりを告げるチャイムが鳴った。
ガラガラ
「ほら、みんな座れよぉ。ホームルーム始めるぞぉ」
一人の男性教師が入ってきた。このクラスの担任になる先生だろう。結構若い。
「はい。この2年3組の担任となった大垣進だ。これから一年間よろしく。まぁ詳しい自己紹介は学級通信に書いておくから見といてくれ」
配られた学級通信に目を通す。学級名簿の下に担任の自己紹介が書いてあった。うわ、体重秘密、年齢不詳、血液型不明。て、ほとんど秘密じゃん。なんか怪しい先生が担任になったようだ。
「質問があるならジャンジャン言っていいぞ。遠慮はするな。つーかいろいろ聞け」
大垣はどでかい声で話す。クラスの数人が手を挙げる。
「ん。そこ、何だ?」
「何で自己紹介プリントのプロフィールがほとんど秘密なんですか」
おお、よく言った。それだ、それを聞きたかったんだよ。さぁ大垣、どう答えるか。
「ふ、なんだそんなことか。それはだな………秘密だからだ!」
一瞬にして教室が凍り付いた。いや、ただ一人、大垣だけは熱々だったけどさ。大垣もクラスの雰囲気を読みとったのか、あ、と間抜けな声を出し、はっはっは、と大声で笑った。意味不明である。
「とりあえず始業式あるからみんな廊下に並べや」
ぞろぞろとみんな教室から出る。私は名簿が一番なので先頭に並んだ。
隣には男子の名簿一番。
赤坂だった―
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