自殺少女とファーストキッス!

モクジ
 実に感動的だな、と思った。
 がつんっ、とかいう嫌な音を立て、さらにはお互いの鼻先は見事ぶつかって変に曲がっている。
 大きく見開かれた目。きっと俺も同じような表情をしているんだろうな。
 まさか、まさか、俺のファースト・キッスがこんな形で散らされるとは思ってもいなかった。
 そのまま、俺は勢い余って彼女と一緒に地面にたたきつけられた。もろに、後頭部を打ちつけてしまった。


 つまるところ、こうなのだ。
 いつものように校舎の花壇で花に水をやっていただけなのだ。残念ながら俺に花を愛でるような可愛らしい趣味はない。これは単なる緑化委員の仕事だ。
 遡ること一ヶ月前。うっかり自分の担当の週に水やりを忘れ、花壇を半壊滅状態に陥らせた俺は、罰としてここ一ヶ月、毎朝こうして花に水をやっている。
 今ではもう、どこにどんな花が咲いているのかバッチリだ。……名前は知らないけど。
 そうやって水をやってると、不意に足下が暗くなったんだよね。気になってふと空を見上げたんだ。
 今日は晴天のハズ。が、雲一つない青い空は見えなかった。
 代わりに――女の子が降ってきたんだよね。
「げげっ!」
「あわわわっ!」
 がつんっ――
 そして、冒頭に戻る。



 後頭部をさすりながら起きあがると、鼻を押さえて半ベソかいてる女の子がいた。何故か知らないけど靴を履いていなかった。
「う、うぇ〜ん、いたいよぉ〜」
 ぴーぴー泣き出す女の子。お、俺か? 俺が悪いのか。
 とりあえずそのまま地べたを這って女の子の顔を下からのぞき込む。
「え、えっと、大丈夫?」
「うぇ〜ん、いたいよぉ〜」
「おーい、大丈夫?」
「うぇ〜ん」
 ダメだ。聞いちゃいない。俺は立ち上がり、どうしようかと首をひねる。
 幸いに、周りには誰もいなかった。よし、これは速やかに撤退が最良の選択だな。
 そう思うやいなや、クルリと反転。そのまま前進!

 ぐいっ

「うおっ!」
 急にズボンを掴まれ、前進を阻まれた。首だけひねり、女の子を見る。
「うぇ〜ん、うぇ〜ん」
 相変わらず、泣いていた。


 とりあえず花壇でこうしてるのも何なので、校舎裏の座れそうな場所に女の子を連れてきた。手を引っ張ると何とか立ってくれて、そのまま着いてきてくれたのだ。
 しかし、問題は山積みである。まずは何故俺がこんな会ったこともないような女の子を校舎裏に連れ込み、なだめなければならないのか。それ以前に、さっきのは何なんだ。空から急に降ってきて。
 し、しししし、しかも! 俺のファーストキッスを! ……ちなみに、まだ歯が痛い。最悪なファーストキッスだ。
 女の子はようやく落ち着いてきたようだ。
「大丈夫?」
 とりあえず、優しい言葉をかける。いいか、泣いてる女の子に追い打ちをかけるようなことはしてはいけないと、親父が熱弁を振るっていたのを思い出す。
「う、うん。ぐすん、大丈夫。ちーん。すっきり。あ、ありがとう」
 そう言いつつ、俺のシャツで何鼻かんでるんですか貴女は!
 拳を握りしめ、プルプル震える俺。が、我慢だ。仕方ない。運が悪かっただけなんだ。
 女の子はキョロキョロと辺りを見回している。
「ね、ねぇ」
「何?」
「ここって、天国?」
「へ?」
 思わず素っ頓狂な声を出してしまった。いや、今なんとおっしゃいました?
「だから、ここって天国?」
「いや、普通の校舎裏だけど」
「え、う、嘘!」
 信じられない、といった表情で彼女は俺を見る。いや、そんな目で見られても……。
「嘘も何も天国なんて場所、死なない限りいけないよ」
「嘘よ! わ、わたし死んだはずだもの! 校舎の四階から飛び降りたハズなんだから!」
「は、はぁ? ちょ、ちょっと待て。い、今なんて言った?」
「だから、飛び降り自殺したから生きているわけないの!」
 さ、サイアクだ。合点がいってしまった。
 つまるところ彼女は自殺しようとして飛び降り。しかし、不運にも下に俺がいたため、最悪なファーストキッスを経験後、それで勢いが殺され、こうして生きているのだ。ていうか、よく俺も無事だったな。四階から飛び降りたっていうのに。
「ま、まさか、わたし生きてるの? じゃ、じゃあさっきの口への衝撃は地面に叩きつけられたんじゃなくて……」
「お、俺の口です。ハイ」
「そ、そんなぁ〜。う、うぇ〜ん」
 ショックのあまり再び泣き出す彼女。
「死ねなかった〜、しかもファーストキッスまで奪われた〜、うぇ〜ん」
 ちょ、ちょっと、待て! う、奪われたなんて誤解だろう。むしろ俺が奪われたと言いたい。
「責任とってよ! このままじゃ安らかに死ねないじゃない!」
「いや、自殺で安らかという表現はおかしいかと」
「うぇ〜ん」
 泣きやまない女の子。
 ど、どうしよう、どうしよう。

 オロオロとする俺はとりあえず彼女の手を取り――――





あとがき
どーも、ヘボラマンです。
受験戦争に疲弊しきってますが、創作意欲は全然衰えていません。
さて、なんとほぼ二ヶ月ぶりくらい久々に小説を書いたのですが、全然ダメでした(てへ♪
やっぱり、普段から書き続けることが大切なんだなぁ、としみじみ思う次第です。はい。
さて、今作品は「ネット小説ランキング」さまで行われている「キスから始まる物語」企画参加作品であります。何をとち狂ったか、書きたくなったのです。
思いついたネタは何とも変なネタで、作品もなんか微妙なところで終わってます。
この後の展開は読者にお任せ! なんて投げやりな考えが見て取れますが、まぁ、所詮「始まり」の話ですから。
この話は是非とも、読者の脳内で彼女を更生させるも良し、再び自殺に走らせてしまうもよし、主人公が事件に巻き込まれるも良し。好きに創造してくださいな。
続きは書く気ナッシング、のはず。
とりあえず、勢いで書いたネタ作品。笑ってくれたら嬉しいです。では。
                                                    2006年10月23日





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