ダレモイナイ

「あんたなんてキライ! だいっきらいよ!」
 そう言われ、見事イイ感じの平手打ちをもろ顔面にくらった俺は、しばし呆然とその場に立っていた。
 一体、何が、どうなって、こうなったのか。ハッキリ言って、全く分からない。ただ、自分が何かやらかしたせいで、平手打ちをくらわせた女の子は涙を流しながらこの場を退場したということだ。
 参ったな。
 頭をぼりぼりと掻いて、俺はぼやく。追いかけて謝ればいいものの、見事にそのタイミングを逸した俺は、間抜け面を引っさげて、ボーっと突っ立っている。
 とりあえず、彼女に謝らないと行けない。けれど、どうすればいいのかサッパリ分からない。
 ともかくメールを送ってみるか。そう思って、俺はケータイを取り出した。
 が、液晶が真っ暗。って、オイ! どういうことだよ!
 どこのボタンを押してもウンともスンとも言わない。仕方ないので、俺は近くの公衆電話から彼女のケータイに電話することにした。
 が、公衆電話から彼女の電話番号にいくらかけてみても、全く繋がらない。オイオイ、マジかよ……。
 あんまり先延ばしにしたくない問題なので、俺は冗談抜きで焦る。ああ、なんて乙女心は不安定なんだ。本気で苦労するぜ。
 家から電話をかけようと思い、ダッシュで帰宅。玄関前においてある電話に飛びつこうとする。が、
「って、電話がない!」
 未だに黒電話だった我が家の電話が見事に忽然と姿を消しているのである。
「お、お袋! で、電話がないぞ!」
 さっきからケータイ駄目、公衆電話駄目。と二連続で彼女との連絡に失敗しているので、少しばかり焦っている俺。そして、だめ押しに固定電話消失。不幸にもほどがあるだろ、オイ。
「電話? 何ですか、それは」
 ちょっと、待てよ、お袋。いくら何でもそりゃないんじゃないですか? 電話が何かって、電話は電話じゃないですか。ちょっと。
「あんたこそ何言ってるのよ。それより、ほら、いっつもバカみたいにほっつき歩いて。早く勉強なさい!」
 なんて言われちゃってるよ、俺。
 お袋に押されて二階の自室に押し込められる。こりゃあ参ったな。俺はベッドに寝転がり、ボーっと天井を見つめた。
 何か、なんかおかしい。いや、絶対におかしい。でも、気にしてたらきりがないな。別の連絡手段は、と。部屋を見渡すと、黒光りするものがあった。
 そーだ! パソコンを使えばいいじゃないか。
 先月買って、二週間前にネット接続されたばかりのパソコンを起動させる。これで、彼女のアドレスにメールを送ればオッケーだ。
 が、いくらまっても起動しない。真っ暗な画面、嫌な感じの機械音を発する俺のパソコン。たらりと流れる汗。
 どうやら、俺のパソコンはわずか一ヶ月でお釈迦になったらしい。南無。
 って、そんな場合じゃない!
 直さねぇとこれはヤバイ! 確かにパソコン購入費の半額は俺のバイト代から出したが、もう半分は親に出してもらったのだ。壊したら激しく困る。せっかくお金を出してもらったのだから、こんなに早く壊しては失礼以外なんでもない。
 パソコンに詳しい親父に助けを求めるか? そう思い、部屋から飛び出る。
 階段を駆け下り、リビングに入るが、
「って、誰もいねぇー!」
 電気もついていないリビングは真っ暗で、さっきまでいたはずのお袋さえいない。
「ったく、こういうときに限ってどこに行ってるんだよ」
 イライラが増してくるが、ここで怒っていてもしょうがない。違う策を練るか? と、ふっと思いついたのは向かいの佐藤さん。そう言えば、あそこの兄ちゃんはパソコン検定一級の持ち主のハズ。
 早速玄関で靴を履き替え、向かいの佐藤さんの家のチャイムを鳴らす。ぴんぽーん。
 ……、が誰も出ない。
 おかしいなぁ、と思いつつもう一回。ぴんぽーん。
 ……、やっぱし誰も出ない。
 仕方ないので、ドアノブをひねってみる。すると、あら、アッサリとドアが開いた。
 中は真っ暗。人の気配なし。失礼と分かっていながらも、俺は中に入らせてもらった。そして一階から二階まで見たけど、ホント誰もいなかった。
 首をひねりながら外に出る。そこで、俺はあることに気づいた。

 どの家の電気も、全くついていないことに。

 どういうことだ!? 俺は近所を走り回った。自治会長の長谷川さん宅。同級生の山崎の家。サッカー部の先輩の大竹先輩の家。そして、俺の彼女で、さっき怒らせた由美の家。
 全部、全部、誰もいなかった。電気さえもついていなかった。
 誰も、誰もいない。ダレモイ、ナイ……?


 ぱんっ


 乾いた音で俺は目覚めた。目の前には、涙をうっすらと浮かべた由美の姿があった。
「あんたなんてキライ! だいっきらいよ!」
 涙をざめざめと流しながら、由美は走り去っていく。そんな姿を見て、俺は慌てて走って追いかけた。
 なんだか、今捕まえないと、消えてしまうような気がした。
 伸ばした手が、彼女の腕を捕まえる。
 そして、


 繋がった――


 
後書き
後書きなんて久々です。はい、どーもヘボラマンです。
この作品は、もの書きネット”もっと”で行われている「第1回 もっと掌編大賞」応募作品です。まぁ、もう投票などは終わりましたけど。
テーマは「ネットワーク」。ネットワークとは何か。そう考えたときに真っ先に思いついたのが携帯やパソコンなどの電子機器。
つまるところ、今人と人を繋いでいるのがそれなんですよね。でも、すんごくそれって脆い。
人と人との繋がりって、やっぱり手と手を繋ぐこと。身体が触れあっていることなんだと、私は思います。
では、あんまり長いと鬱陶しいので、この辺で失礼します。


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